中部山岳域における半自然草原の変遷史と草原性生物の保全

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  • チュウブ サンガクイキ ニ オケル ハンシゼン ソウゲン ノ ヘンセンシ ト ソウゲンセイ セイブツ ノ ホゼン

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抄録

日本の半自然草原の面積は20世紀に大きく縮小し、そうした環境に依存してきた草本類や昆虫類の多くが存続をおびやかされる状況となった。それにともない、人為的な植生の撹乱や伝統的土地利用の歴史への関心が高まるようになった。しかし最終氷期以後の歴史を通じて日本列島でどのように半自然草原が維持されてきたのかについては不明な点が多い。そこで本論では、中部山岳域を主な対象としてその変遷史を解明するための素描を試みる。中部山岳域では、氷期以来の草原性の動植物が火山の山麓など各地にみられる半自然草原に生き残ってきた。全国に広く分布する黒ボク土は微粒炭を含んでおり、過去の草原環境の立地を示すと考えられている。微粒炭に関する最近の研究から、日本列島では縄文時代頃以降、野火が頻繁に起こっていることがわかってきた。これは人為的な火入れによるものである可能性もある。古代以降、中部山岳域では馬の放牧が盛んにおこなわれるようになった。近世には経済社会化の進行と人口の増加にともない、草や柴などの刈り取りによる採草地からの資源利用の圧力が増大した。19世紀以降の工業化は、半自然草原を維持するこのような営みを大きく縮小させた。このような歴史を通じて、規模の大きな半自然草原や多くの近接した半自然草原が長期間維持されてきた場所は、草原性生物にとって安定したレフュジアとなってきた可能性がある。そうした場所を特定し、今後の保全・再生につなげるためには、(1)植生や土地利用の分布に関するデータ、(2)黒ボク土や微粒炭など過去に草原植生が存在したことを示す試料の分布、(3)種や地理的系統・遺伝的集団構造などの分布を示すデータ、(4)歴史的な文献資料から示される人間活動の分布といった情報が利用可能である。

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