米国新聞における在沖海兵隊普天間基地移設問題報道のメディア・フレーム(2009-2010)

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  • Media Frames of the Futenma Issue in U.S. Newspapers (2009-2010)

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抄録

本稿は、鳩山政権時の2009年9月から2010年6月のワシントンポストとニューヨークタイムスにおける在沖海兵隊普天間航空基地移設問題報道に関する66記事を分析し、両紙のメディア・フレームの酷似性を確認した。特に、日米同盟重視を強調するフレームの酷似性が高かった。記事の分析には、政治コミュニケーション研究者ロバート・M・エントマンのフレーミング理論を援用した。フレームの機能には、(1)結果や状況を問題点として定義する。(2)問題の原因を診断する。(3)それについての道徳的判断を示す。(4)問題の解決法、あるいは状況の改善法を推奨する(筆者訳)の4つがあり、両紙の記事はフレームが果たす機能すべてを満たしていることが確認された。多くの記事において、鳩山首相が中心的なアクターに据えられており、鳩山首相の政治的に「実現不可能な」公約、つまり普天間基地の沖縄県外および日本国外への移設が、ここでは長年の日米同盟を揺るがす上記(1)にあたる「問題」としてフレーミングされている。上記(2)問題の原因は、「経験のない、未熟な」鳩山新政権の発足であろう。鳩山政権は、2006年に日米で「合意」決定された普天間飛行場の辺野古移設を「破棄する」意思を米政府に伝え、米国政府、メディアの強い反発に遭う。米主要メディアは、こぞって、上記の(3)にあたる「道徳的な判断」を打ち出した。それは、沖縄の人々の負担を軽減するために、普天間基地は「できるだけ早く、人口がより少ない場所へ移設するべきだ」という判断である。D移設地候補の決定を先送りにする鳩山首相に怒りをあらわにする沖縄の人々の様子を、米新聞が 1、 2行で端的に報道することによ り、上述の「道徳的判断」は強化され、同時に、鳩山首相の 「優柔不断さ」 と 「無能さ」を強調することにも成功し、移設地が決定されない責任を首相個人の 「優柔不断さ」や 「無能さ」 に帰結する傾向が見られた。沖縄内外からの日米安保の見直しを求める声や、基地を全国の都道府県で平等に負担すべきだという議論はほとんど報道されず、普天間基地の移設が進まないのは、鳩山首相個人あるいは民主党政権の責任だという一貫した論調が押し通されていた。そして、その論調が示唆することは、首相が辺野古移設に同意し、早急に計画を進めない限り、普天間基地周辺の人々の生命が脅かされ続け、鳩山首相および民主党はその責任を取らなければいけないということであった。 さらに、 この間題への解決策として提示されていたのは、普天間飛行場の 「沖縄県内の人口がより少ない土地への移設」、つまり、沖縄県北部名護市の辺野古地区への移設であった。そうすれば、 「核武装された北朝鮮」の脅威に対抗る 「抑止力」として辺野古に建設予定の新基地が機能するという論理である。もう一つの解決策として米国新聞が挙げていたのは、「鳩山首相の辞任」であった。また、地位協定や米軍基地から派生する環境汚染、 「思いやり予算」に関する言及が皆無に近い点を指摘した。 ワシントンポストとニューヨークタイムスの記事では、 日米同盟重視、普天間基地の辺野古移設ありきのメディア ・フレームが顕著であり、普天間基地移設問題は、鳩山由紀夫首相の政治的手腕と関連 して報道された。それらの報道は、日本のジャーナリストやメディア、政治エリートたちに影響を与え、鳩山政権崩壊の重要な要因の一つとなったと考えられる。 This paper examines 66 articles on the Futenma issue that appeared in two major U.S. newspapers, The Washington Post and The New York Times, in 2009-10 and finds the media frames of both papers to be nearly identical, especially in highlighting the importance of the Japan-U.S. security alliance. Robert M. Entman's theory of framing in political communication is employed in analysis of the articles concerning Prime Minister Yukio Hatoyama's handling of the relocation of the Futenma U.S. air base. The newspaper articles successfully implemented all four functions of news framing and may have had influence on the resignation of Japan's Prime Minister in mid-2010.

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