シュールな誕生 : 『ユリシーズ』第14挿話をめぐって

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  • シュール ナ タンジョウ : 『 ユリシーズ 』 ダイ14ソウワ オ メグッテ
  • Stephen and his Ghot-son : The "Oxen of the Sun" Episode and a Surrealistic Reading of Ulysses

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ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』(1922)は『若き芸術家の肖像』の主人公スティーヴン・ディーダラスを引き継ぐ形でスタートする。ダブリンを脱出したものの、「飛翔」に失敗し戻ってきたスティーヴンが、第1挿話から第3挿話の中心である。しかし、第4挿話になると、読者の前に突如、もう一人の主人公レオポルド・ブルームが現れる。三十八歳のユダヤ人、新聞社の広告取りである。本稿は『ユリシーズ』第14挿話を、若き芸術家スティーヴンを中心に読み、ブルームとの関係を考える。  二十二歳のスティーヴンとユダヤ人のブルームは、これまで何の接点もなく、ただすれ違うだけで、スティーヴンはブルームの存在に気づいてさえいない。第14挿話の産科病院で二人は初めて同席するのである。  第14挿話のテーマは「出産と誕生」で、三日がかりの難産に苦しむピュアフォイ夫人の無事男子出産が挿話のクライマックスとなる。出産の知らせにスティーヴンは「バーグ酒場へ」と叫び、一同は夜の居酒屋へと繰り出す。本稿はまず第Ⅰ部「父スティーヴンと亡霊の息子」で、この挿話が芸術家スティーヴンの「出産」を祝う挿話であること、また、ブルームがスティーヴンの生み出した作中人物、すなわち「亡霊の息子」であることを証明する。スティーヴンは「言葉による創造主」を目指しており、「子(=作品)」を産んで初めて「父(=創造主)」、つまり「芸術家」になったのである。  第Ⅱ部「モダニズム時代の芸術家(アーティスト)」では、ジョイスにとって「芸術家」とは何であったのかを問い、「芸術家」の時代背景を考える。象徴主義からシュルレアリズムまで、モダニズム時代の前衛運動をたどり、『ユリシーズ』のシュルレアリスティックな読みの可能性を検討する。

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