酸素分子の立体制御とアルミニウム酸化動的過程の解明(最近の研究から)

書誌事項

タイトル別名
  • Preparation of an Aligned O_2 Beam and the Clarification of the Aluminum Oxidation Dynamics(Research)
  • 酸素分子の立体制御とアルミニウム酸化動的過程の解明
  • サンソ ブンシ ノ リッタイ セイギョ ト アルミニウム サンカ ドウテキ カテイ ノ カイメイ

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抄録

酸素分子は最も身近に存在する活性な分子である.燃焼反応,集積回路の絶縁膜作製,合成化学反応,自動車排ガス処理,燃料電池,光触媒等において我々はその活性を利用する一方,酸素による腐食に耐える新材料を開発してきた.ここで酸化反応の場が表面である場合,反応は酸素分子が表面に吸着するところから始まる.絶縁膜作製,触媒,腐食などは全てこれに該当する.従って酸素吸着を研究する動機は,主にその応用上の重要性にあった.しかし,その挙動は基礎科学的視点からも興味深く,理解は未だ十分でない.例えばアルミニウム酸化反応は非常に発熱的でエネルギー的に有利であるにもかかわらず,酸素ガス分子の吸着確率は0.1以下である.O_2分子が持つ直線分子という異方的形状や電子スピンの役割が近年議論されている.酸素吸着を含め,吸着とは分子が表面に接近・衝突し,表面と化学結合を形成する過程である.この過程を議論する際,以下の二点についてまず認識しておく必要がある.第一は,衝突反応の時間スケールである.数百メートル毎秒の速度で熱運動している分子が,数Å以下の距離まで表面原子に接近したときに相互作用が始まり,反応が起きる.従って相互作用の時間スケールは10^<-12>秒以下と大変短く,時々刻々の状態変化を実時間追跡することは容易ではない.第二は,様々な入射条件の分子が反応に関与する点である.分子の運動エネルギー,入射方向はもちろん,分子軸の向き,回転,振動,スピン状態等も反応に影響する因子として考慮する必要がある.この反応の動的過程を明らかにするため,二つの異なるアプローチが採用されてきた.第一は,走査型トンネル顕微鏡,光電子分光法等の表面分析法を用いる方法である.ここでは反応後の表面吸着種の構造や化学状態を原子スケールの空間分解能で調べ,その知見を基に反応中の様子を探る.第二は,運動エネルギー,入射角等を指定した分子のビームを用いる方法である.ここでは,どのような入射条件の分子が主に反応しているのかを明らかにする.分子の回転・振動・スピン等の内部量子状態を制御することも可能になりつつある.例えば回転状態を制御した分子ビームにより,特定の軸方位を持つ分子の反応確率が高いと判明すれば,吸着反応にはその軸方位の分子が主に関与しているとわかる.酸素吸着の動的過程は,上記二つのアプローチにより詳しく研究されてきた.しかし,内部量子状態を指定した酸素分子ビームによる表面反応研究は,ほとんど報告がない.筆者らは,酸素分子の磁気モーメントが電子スピンと分子内回転の角運動量に依存することに着目し,分子軸とスピンの向きをよく定義できる酸素分子ビームを初めて開発した.この実験では,試料位置における磁場方向を制御することにより,酸素分子回転面が表面平行のヘリコプター型(helicopter)配置と垂直な車輪型(cartwheel)配置を区別することができる.このように立体配置を制御した酸素分子ビームを用いて,アルミニウム表面酸化反応の立体効果を明らかにし,長年謎であった反応動的過程を解明した.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 69 (8), 547-552, 2014-08-05

    一般社団法人 日本物理学会

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