我が国における生体分子・粒子の構造解析 : 過去・現在そして未来の展望(<小特集>X線・粒子線構造解析)

書誌事項

タイトル別名
  • X-ray Structure Analyses of Biological Molecules and Particles in Japan : A Brief History and Future Prospect(One Hundred Years of X-ray and Particle Diffraction)
  • 我が国における生体分子・粒子の構造解析 : 過去・現在そして未来の展望
  • ワガクニ ニ オケル セイタイ ブンシ ・ リュウシ ノ コウゾウ カイセキ : カコ ・ ゲンザイ ソシテ ミライ ノ テンボウ

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抄録

生物の基本単位は何かと問われると,それは細胞であろう.さらに細胞を相手にする研究の究極の目標は?と問われると,細胞の一生をサブナノメートルの空間分解能とピコ秒程度の時間分解能で記述することが一例として挙げられる.大きさ数〜数十μm程度の生物細胞は,10^<18>個程度の水分子を含む.その中では,脂質分子二重膜によって隔離され,生命現象を担う生体分子群やその設計図である核酸を集積した,高度かつ多階層的機能空間としての細胞内小器官(オルガネラ)が様々な生理学的機能を担っている,細胞や細胞内小器官のような機能空間の時空間構造やそれを構成している生体分子の姿を解明することは,生物学を物理学の俎上に載せるためには不可欠であると考えられる.生体物質のX線構造研究は,1930年代に英国で始まっており,1960年代には,大量に試料精製可能な蛋白質の結晶構造が決定されていた.我が国では,1970年代半ばから,蛋白質のX線結晶構造解析やX線小角・回折による生体超分子系の構造研究が,大学で行われるようになった.1983年に高エネルギー物理学研究所(当時)においてフォトンファクトリーが稼働し始めると,高強度X線を利用した筋肉や生体膜のX線小角散乱・回折実験が盛んになり,放射光スペクトルの波長連続性を利用した多波長異常分散法による蛋白質結晶構造解析が世界に先駆けて行われた.1997年にSPring-8が稼働すると,回折強度データ収集中に生じる蛋白質結晶の放射線損傷の対策が低温X線回折実験として実現され,それまで困難であった放射線敏感な蛋白質結晶の構造解析を可能とし,21世紀に入ってμmサイズの微小結晶の構造解析が実現された.X線小角散乱・回折実験では,一次元の散乱プロファイルから分子の三次元形状を推定することが可能となっている.2012年には,新しい光源としてX線自由電子レーザーが登場し,超高輝度X線を利用した無損傷高分解能X線結晶構造解析や非結晶粒子のX線構造解析の道が開かれた.本稿では,過去40年間の我が国における生命科学分野でのX線結晶構造解析とX線小角回折の歴史を,我が国のX線構造解析分野が得意とする計測技術の発展を軸としながら振り返ることとした.なお,図の説明では,著者らの実験ノートを見返して,可能な限り露光時間を記録したので,当該分野での40年間の技術発展がいかにすさまじいかを理解いただけると思う.参考文献については,初学者が関心を持つように,国内の総説・解説を掲げ,個々の構造解析の成果については,分子生物学などの教科書や学会誌等を参照していただくこととした.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (9), 702-712, 2015-09-05

    一般社団法人 日本物理学会

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