ハロゲン化鉛ペロブスカイト太陽電池 (最近の研究から)

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タイトル別名
  • Organo-Lead Halide Perovskite Solar Cells (Research)
  • ハロゲン化鉛ペロブスカイト太陽電池
  • ハロゲンカ ナマリ ペロブスカイト タイヨウ デンチ

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抄録

太陽からの恵みである膨大な光エネルギーを直接電気に変換し生活に利用できるようにする太陽電池は非常に魅力的なエネルギー変換デバイスである.光エネルギーを電気エネルギーに変えるには半導体の優れた特性を利用する必要があり,半導体材料を基盤とした太陽電池の研究は,非常に長い歴史がある.1954年に米国ベル研究所のChapin,Fuller,Pearsonによって結晶シリコンのpn接合を用いた太陽電池が発明され,実用化を目指した研究がスタートした.1948年の点接触型トランジスターおよび1951年の接合型トランジスターの発明とほぼ同時期であり,半導体がまさに新しい時代を切り開こうとした時期の研究者の猛烈な意気込みを感じることができる.その後60年間,太陽電池の効率は非常にゆっくりではあるが着実に向上し,物理,化学,電子工学などの分野で研究対象となり実用化されてきた.また,東日本大震災以降,空き地や身近な場所で太陽電池施設を数多く見かけるようになっている.太陽電池を半導体材料の立場から分類すると,バルク型と薄膜型に大別することができる.バルク型は,シリコンの結晶を利用したもので,我が国では多くの家の屋根に設置されている.一方,作製コストも低く,しかも軽量で,さらにエネルギー変換効率の高い新しい太陽電池材料としての薄膜が最近再び注目されるようになった.以前に期待されたアモルファスシリコンや有機色素ではなく,CIGS(CuInGaSe),CZTS(CuZnSnS),CdTeなどの無機化合物半導体さらにはハロゲン化金属ペロブスカイトの有機-無機ハイブリッド半導体である.これらは20%以上の太陽電池効率を示すものも報告されており,新しい太陽電池材料として存在感を高めている.なかでも,ハロゲン化鉛ペロブスカイトCH_3NH_3PbI_3は,爆発的に変換効率が向上している期待のニューフェースである.CH_3NH_3PbI_3薄膜は,数10ナノメートルからミクロンサイズの微結晶の集合体であるにも関わらず,室温で高効率のバンド端発光を示す.グレインからなる多結晶薄膜であるが,深い非発光中心やトラップ準位が少なく光学的に良質の半導体材料である.また,室温でのバンドギャップエネルギーは1.61eVであり,直接遷移型半導体に由来する高い光吸収を示す.これらの特性は,理想的な太陽電池材料であるGaAsに匹敵する.この新材料を利用した太陽電池は,色素増感型太陽電池の有機色素をCH_3NH_3PbI_3で置き換えた構造をしており,励起子型太陽電池として特性が議論されたが,無機半導体と同じく自由な電子と正孔が高効率太陽電池動作を起こすことが分かった.現時点では,基礎物性が十分に解明されておらず,材料の安定性やデバイス寿命,さらには毒性のPbを含むなど実用に向けての課題も存在する.しかし将来的には,化学的な合成および物理的な精密測定により多くの問題が克服され,新しい実用太陽電池の開発へと結実できるものと期待される.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (12), 926-931, 2015

    一般社団法人 日本物理学会

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