直接ギャップ半導体ヘテロ接合による二次元トポロジカル絶縁体(最近の研究から)

書誌事項

タイトル別名
  • Topological Insulating Phase in Direct Transition Band Gap Semiconductor Heterostructures(Research)
  • 直接ギャップ半導体ヘテロ接合による二次元トポロジカル絶縁体
  • チョクセツ ギャップ ハンドウタイ ヘテロ セツゴウ ニ ヨル ニジゲン トポロジカル ゼツエンタイ

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抄録

近年,トポロジカル絶縁体と呼ばれる新しい物質群が注目を集めている.トポロジカル絶縁体は,通常の絶縁体・半導体と同様にバンドギャップが開いたエネルギーバンド構造をもち,かつ,化学ポテンシャルがバンドギャップ中に位置するため「絶縁体」である.一方で,そのバンド構造から「トポロジカル数(ドーナツの穴のような量)」が定義でき,真空や通常の絶縁体と異なる非自明な値をもつ.このため,トポロジカル絶縁体では内部から外部へ向かってエネルギーギャップが開いた状態を滑らかにつなげることはできず,トポロジカル数を変えるために境界となる場所でエネルギーギャップがゼロにならなければいけない.その結果2次元(3次元)トポロジカル絶縁体の境界線(表面)上に伝導チャネルが現れる.トポロジカル絶縁体は,「絶縁体」と名前が付いていながら電気を流すことができるのである.歴史的には2次元トポロジカル絶縁体がHgTe/HgCdTeヘテロ構造において最初に実現された.その後,多くの3次元トポロジカル絶縁体が発見され,現在も活発な研究が行われている.3次元トポロジカル絶縁体の研究が進展する一方で,2次元トポロジカル絶縁体の研究の進展は遅かった.それは,HgTe/HgCdTeヘテロ構造の作製が難しいためである.そのような状況で,最近になり直接遷移型エネルギーバンド構造をもつ半導体で構成されるInAs/GaSbヘテロ構造を用いて,人工的な2次元トポロジカル絶縁体の実現が試みられるようになっている.InAs/GaSbヘテロ構造では構成要素となるInAs,GaSbともに通常の半導体である.InAsの伝導帯とGaSbの価電子帯がエネルギー的に重複しており,ヘテロ界面を通して混成することでトポロジカル絶縁体のエネルギーバンド構造を実現する.しかしながら,このエネルギーバンド構造はエネルギー重複について非常に敏感であり,重複が大きすぎると半金属となり,重複がないと半導体となる.InAs/GaSbヘテロ構造では,HgTe/HgCdTeヘテロ構造と同様に各層の厚さを変えることで,量子閉じ込めを利用したエネルギー重複の制御が可能であるが,これに加えて,表面側と基板側に付けたゲートによる外的なエネルギー重複の制御も可能である特徴をもつ.トポロジカル絶縁体の確認は,量子スピンホール効果による伝導度の量子化を観測するのが最良であるが,量子化を妨げる様々な障害がある.筆者らは,エネルギー重複の最適化されたInAs/GaSbヘテロ構造試料において非局所抵抗測定を行い,隣り合った非局所抵抗比が電流端子の配置に依存せずに一致することからトポロジカル絶縁体の実現を示した.本手法は,内部領域が絶縁で伝導がエッジチャネルに支配されていることを非常に単純に証明できる.III-V族半導体は産業的に普及しており,InAs/GaSbヘテロ構造によるトポロジカル絶縁体の実現は,高度に発展した半導体技術の利用を可能とし,今後,トポロジカル絶縁体の詳細な物性解明とデバイス応用の促進が期待される.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 71 (2), 93-98, 2016-02-05

    一般社団法人 日本物理学会

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