光誘起構造変化初期における非断熱核形成2段階ダイナミクス

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タイトル別名
  • Two-Stage Nonadiabatic Dynamics of Photoinduced Nucleation
  • ヒカリ ユウキ コウゾウ ヘンカ ショキ ニ オケル ヒダンネツカク ケイセイ 2 ダンカイ ダイナミクス

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抄録

<p>光照射を受けた物質内での励起状態の緩和過程については,古くから膨大な研究が蓄積されている.この中で励起後の数psec程度の時間内で,明らかに励起電子の協同的ダイナミクスが関与していると見られる現象が,この20年程の間に,次々と発見されてきた.これら一連の現象は「光誘起協力現象」と呼ばれており,われわれは,その発現機構を解明すべく,光励起直後の協力的動力学過程について様々な理論的研究を進めてきた.多くの場合,電子励起状態の緩和に伴って格子系,すなわち結晶構造にも「巨視的」な変化が見られる.これは強い電子・格子相互作用の関与を示唆していることから,我々は,光学フォノンモードと結合した局在電子系モデルを用い,過渡的な結晶構造変化に焦点を絞って数値計算によるアプローチを進めてきた.この場合には,光励起直後のFranck-Condon状態の生成を引き金として核形成過程が誘起され,励起エネルギーが格子振動として系内を伝搬しながら,電子状態および結晶構造の巨視的変化が進行する.このような現象は「光誘起ドミノ効果」とも呼ばれているが,特に電子状態ダイナミクスの非断熱性が重要な役割を果たすと考えられることから,ポテンシャルエネルギー面の交叉点における波束分岐のダイナミクスが重要となってくる.</p><p>光誘起核形成過程の理解のために,パターン形成理論との関連が議論されていたが,最近になって最初期のダイナミクスの詳細を明らかにするには,成長界面としての基底状態・励起状態間「境界」の時間変化に着目することが極めて有用であることがわかってきた.特に,境界の形状を幾何学的パターンとして捉えると,拡散律速凝集(DLA)などから類推される通り,そのフラクタル性が当然問題となる.しかし,格子変位や励起状態占有率の空間分布が形成する幾何学的パターンを議論するには,より複雑なパターン解析の手法も必要となってくる.本研究ではマルチフラクタルの概念を用いて,こうした幾何学的パターンをモノフラクタル集合の和集合として捉え,核形成過程の初期ダイナミクスの詳細な解析を進めたところ,光励起(吸収)によって生成されるFranck-Condon状態がそのまま光誘起核にならずに,Franck-Condon状態が非断熱遷移を繰り返しながら励起状態を激しく組み換え,その結果,核成長に直接繋がる状態が生成されるという,初期核形成の「2段階性」がわかってきた.こうした核が形成されたのち,系の時間発展はほぼ断熱的に進行し,光誘起ドメインの成長過程へと移行する.したがって,光励起直後の緩和過程において,核成長可能な励起状態が生成されることが,光誘起協力現象の可否を決める条件の一つであり,この現象の機構,あるいは発現条件を考える上で,理論・実験両面において重要な示唆を与えることができると期待される.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 71 (7), 474-479, 2016

    一般社団法人 日本物理学会

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