災害と歴史学

書誌事項

タイトル別名
  • The place of natural and man-made disasters in historical science
  • 災害と歴史学 : 「防災史」研究の視座
  • サイガイ ト レキシガク : 「 ボウサイシ 」 ケンキュウ ノ シザ
  • From the perspective of the history of disaster prevention
  • 「防災史」研究の視座

この論文をさがす

抄録

本特集「20世紀日本の防災」は、2016年11月開催の第114回史学会大会における近現代史シンポジウムの成果を再構成したものである。戦前から戦後を貫く時期を対象に、「防災」概念の形成や諸機関の対応、国際協力の変化などを検証することで、災害史を総合的に捉える視角の提示をめざした。本稿では、各論の背景にある災害に対する歴史学の役割と、「防災史」研究の視座について研究史を踏まえながら論じた。<br> 災害に対する歴史学のむき合い方には大きく二つの方法がある。すなわち、一つは災害の脅威から歴史資料を保護すると同時に、災害の記録を後世に伝えていく方法、もう一つは史料批判に基づく実証によって過去の災害像を明らかにし、災害史研究の成果として社会に還元していく方法である。従来、歴史学において災害が研究対象になることは少なかったが、1995年1月の阪神・淡路大震災以降、前者の活動が各地で活発に展開されるようになった。一方、後者の活動についても北原糸子や鈴木淳を中心に、理系分野の研究者と連携しながら研究成果を蓄積、その一部は中央防災会議が設置した「災害教訓の継承に関する専門調査会」の報告書に繋がっている。さらに2011年3月に発生した東日本大震災は、歴史学の役割を問い直す契機となり、各学会は災害史に関するシンポジウムや特集記事を通じて議論を深めたほか、関東大震災90周年となる2013年9月前後には、災害史に関する企画展示が各地の博物館や文書館で展開されていった。<br> そうした動きから確認できるのは、①過去の災害における人々の行動の検証は、人文科学、特に歴史学の役割であることと、②他分野の研究成果も取り入れながら、継続的に災害史研究を進めて行くことの二点である。こられの点を近現代の政治社会史の観点から考えた場合、従来の災害史の研究蓄積を継承しながら、防災という政策の変遷を解明することで、新たな視座を提示することができると考える。<br> ここで分析対象とする防災には、①平時、②災害発生、③応急対応、④復興、⑤災害対策、⑥災害を経験した新たな平時という時間的なサイクルがあり、それぞれの段階で政治的、社会的な動きがある。これらを過去の災害の連続性から多角的、構造的に捉えることで、将来的な「防災史」の確立をめざしていきたい。本特集から歴史学の新たな可能性が導き出せれば幸いである。

収録刊行物

  • 史学雑誌

    史学雑誌 127 (6), 1-6, 2018

    公益財団法人 史学会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ