Prototheca属の藻類学的研究 Algological study of the genus Prototheca

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著者

    • 池田, 輝雄 イケダ, テルオ

書誌事項

タイトル

Prototheca属の藻類学的研究

タイトル別名

Algological study of the genus Prototheca

著者名

池田, 輝雄

著者別名

イケダ, テルオ

学位授与大学

麻布大学

取得学位

獣医学博士

学位授与番号

乙第264号

学位授与年月日

1987-12-02

注記・抄録

博士論文

Prototheca属は,1894年にKrügerが樹液から色素を持たない単細胞の菌として分離したのが最初の記載であり,このPrototheca属は培養性状が酵母様真菌に類似していたことから酵母として分類され,2藻種すなわちP. zopfiiおよびP. moriformisに分類・同定された。その後,単一細胞内に娘細胞を形成し増殖するChlorella属と類似する増殖態度を有することから藻類Algaeに再分類され現在に至っている。その間,Chlorella属とPrototheca属の形態および生理生化学的性状の研究が行なわれ,Prototheca属はChlorella属から変異・分化したものであると理解されるに至った。 Prototheca属は,一般に土壌・樹液・淡水・糞便などの自然界から容易に分離されること,また,本属は人あるいは動物のプロトテカ症の原因となることがよく知られている。これら自然界あるいは病巣から分離されたPrototheca属の分類に関する研究は,培養性状・生化学的性状・形態学的観察・血清学的性状などにより行われ,1972年までには,P. zopfii,P. moriformis,P. portoricensis,P. ciferii,P. wickerhamii,P. segbwema,P. stagnoraの7種の藻種が認められていたが,その後,P. filamenta,P. zopfii,P. wickerhamii,P. moriformis,P. stagnoraの5藻種,P. filamenta,P. zopfii,P. wickerhamii,P. stagnoraの4藻種,P. zopfii,P. wickerhamii,P. stagnoraの3藻種に再分類されるという経過を辿ってきた。しかしながら,最近,形態および生化学的性状から再びPrototheca属をP. zopfii, P. wickerhamii,P. moriformis,P. stagnoraの4藻種に分類することが報告されている。以上のように,Prototheca属の藻種の分類に関しては,統一的な見解が得られていないのが現状である。その原因として,形態学的・生化学的あるいは血清学的性状につき,それぞれ別の見地から分類しているために混乱が生じていると思われる。 そこで著者は,供試藻株の培養性状・形態・生理化学的性状について精査するとともに,血清学的手法を用いて供試藻株間の比較を行なうことにより総合的に藻種の関連を解明することを試みた。 一方,プロトテカ症は多くの真菌症と同様に日和見感染症(自発性感染症)のカテゴリーに分類されるが,その病型は多様で,しかも人のみならず・犬・猫・鹿・魚類などにも自然発生が認められている。特に,米国・欧州・カナダでの牛乳房炎や,ほとんどのものが重篤な深在性プロトテカ症の病型をとる犬の報告は多く,獣医学領域では重要な感染症の1つとなってきた。しかしながら,このようにPrototheca属の症例は数多く報告されているが,本症の病因論的検討はほとんどなされていない。また,本症の治療に関する報告も単一薬剤の検討がほとんどであり,基本的な薬剤の比較試験の報告がないのが現状である。そこでマウスを用いた感染実験により感染成立要因を,またマウス腹腔由来の食細胞を用いたin vitroの実験系で感染防御要因を明らかにすることを試みた。さらに,数種類の抗菌剤に対する感受性試験を実施して,Prototheca属に有効な薬剤について比較検討した。 本研究ではPrototheca属の培養性状・形態・生理化学的性状・血清学的性状による藻種の分類・病原性およびそれに対する防御因子について検討し,さらに抗プロトテカ剤についても検討した。本研究成績の概要は以下のとおりである。 1. Prototheca属の自然界における分布 Prototheca属は環境中に容易に見い出されることは既に多くの成書に記載されているが,その詳細な報告はなされていない。また,Prototheca属が原因となるプロトテカ症も近年増加の傾向にあるが,本邦での生態に関しては殆ど不明のままである。この原因として本属は酵母様真菌と集落形態が類似するため酵母様真菌として処理されたことが考えられる。 そこで著者は,Sabouraudデキストロース寒天培地(SDA)・PIM培地および感受性試験からPrototheca属への感受性がないことが証明されているペニシリンを加えた変法PIM培地を用いてPrototheca属の分離を試みた。 その結果,環境中からのPrototheca属の分離はSDAに比べ,PIM培地および変法PIM培地が優れていた。すなわち,各培地でそれぞれPrototheca属は池水(n=50);10,30および40%,樹液(n=50);2,10および14%,河川(n=50);16,42および50%,および土壌(n=50);0,4および8%に分離されたが,牛372頭の乳汁の合計572検体からは1株もPrototheca属を分離できなかった。 2. Prototheca属の藻類学的性状 Prototheca属の特徴としては,Chlorella属に類似した生活環が挙げられる。その生活環はAutospore formation(オートスポア形式)と呼ばれ,単一細胞から発育が始まりやがて内部分裂により細胞内に娘細胞が形成されるというものである。そこで,Prototheca属の藻種間での生活環とその形態を光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡を用いて比較・検討した。 光顕的観察の比較では,母細胞はP. zopfiiの病巣由来7918-1,8008-1,B-1270株では楕円形であったのに対して,環境由来のB-1266株では球状に近い楕円形であった。また,娘細胞の形態は,P. zopfiiの病巣由来7918-1,8008-1,B-1270株では楕円形であったが,環境由来のB-1266株を含むP. wickerhamiiおよびP. stagnoraでは球形であった。母細胞に含まれる娘細胞の数の比較では,藻種により大きさおよび数の違いが特徴的であった。各藻種の細胞の大きさについては,おおよそ藻種および藻株の由来によりその大きさは若干異なり,特にP. staqnoraが他の藻種に比べ大きい特徴が示された。 走査型電子顕微鏡を用いた観察結果は,いずれのPrototheca属の藻種も表面が滑らかな球形~楕円形を示し,成熟した母細胞壁は破れ易くなっている像が観察された。各藻種の比較では,P. zopfiiは楕円形,P. wickerhamiiは小形球状,P. stagnoraは大形球状を示し,明らかに藻種間での相違を認めた。一方,同一藻種とされているP. zopfiiにおいて由来による形態の相違が認められた。すなわち,牛乳房炎由来の7918-1株,8008-1株,B-1270株が大形の楕円形であったのに対して,環境由来のB-1266株はやや小形の球状に近い楕円形であった。 透過型電子顕微鏡による観察結果では,いずれのPrototheca属も形は異なるものの,細胞内には核・電子密度の高い小体・ミトコンドリアが観察され,また細胞壁は2層構造であることが特徴であった。 供試藻8株の培養および形態学的性状は,いずれの藻種においてもクロロフィルを保有せず,Autospore formation(オートスポア形成)による増殖,ビタミンB_1による発育促進およびシクロヘキサミドによる発育抑制は共通したものであった。集落形態はいずれの藻株もSDAでよく発育し,集落は白色酵母様であったが,P. zopfiiは培養が古くなるに従い,黄褐色を呈するようになるのが特徴であった。また,環境由来のP. wickerhamii B-1421株は病巣由来のB-1280株と異なりやや顆粒状の集落を形成した。 供試藻株の培養温度の違いによる発育態度は,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株は15℃~42℃で発育可能であったが,同じ藻種であるB-1266株は36℃ですでに発育が阻害された。また,P. wickerhamiiのB-1280株は15℃~42℃で発育可能であったが,B-1421株の15および36℃での発育は不良であった。P. stagnoraのB-1277株は15℃~42℃で発育可能であった。 各藻種の19種類の炭素源同化能をAPI 20Cを用いて調べた結果,藻種別に比較すると,P. zopfiiはグルコース,グリセリンを,P. wickerhamiiはグルコース,グリセリン,ガラクトース,トレハロースを,P. stagnoraはグルコース,ガラクトースを同化し,明らかに藻種による相違が認められた。 供試藻株の細胞酵素活性についてはAPI ZYMキットを用いて調べた19種類の酵素の結果,供試藻株を比較すると,7918-1,8008-1およびB-1270株が同一の細胞酵素活性を示す以外は,それぞれの藻株により細胞酵素活性は異なっていた。すなわち,7918-1,8008-1およびB-1270株はエステラーゼ(C4),エステラーゼリパーゼ(C8),ロイシンアリルアミダーゼ,酸性ホスファターゼ,ホスホアミダーゼ活性を,さらにアルカリホスファターゼ,リパーゼ(C14)にも弱い活性を持ち,B-1266株はエステラーゼ(C4),エステラーゼリパーゼ(C8),リパーゼ(C14),ロイシンアリルアミダーゼ活性と弱いアルカリホスファターゼ,バリンアリルアミダーゼ,酸性ホスファターゼ,ホスホアミダーゼ活性,B-1421株はアルカリホスファターゼ,エステラーゼ(C4),エステラーゼリパーゼ(C8),ロイシンアリルアミダーゼ,酸性ホスファターゼ,ホスホアミダーゼ活性と弱いトリプシン活性を,B-1280株はエステラーゼ(C4),エステラーゼリパーゼ(C8),酸性ホスファターゼ,ホスホアミダーゼと弱いアルカリホスファターゼ,ロイシンアリルアミダーゼ,トリプシン活性を,B-1277株はエステラーゼ(C4),酸性ホスファターゼ,ホスホアミダーゼ活性と弱いアルカリホスファターゼ,エステラーゼリパーゼ(C8),トリプシン活性を保有していた。しかしながら,シスチンアリルアミダーゼ,キモトリプシン,α-ガラクトシダーゼ,β-ガラクトシダーゼ,β-グルクロニダーゼ,α-グルコシダーゼ,β-グルコシダーゼ,N-アセチル-β-グルコサミニダーゼ,α-マンノシダーゼおよびα-フコシダーゼ活性はいずれの藻株にも認められなかった。これらの結果は培養および細胞形態で得られた藻種および藻株間での相違とよく一致し,藻種間の鑑別に酵素活性を利用することは困難であるが,Prototheca属を鑑別するためには利用できると推測された。 供試藻株の細胞糖および蛋白含有量は,B-1421およびB-1270株の蛋白量を除き各藻株間に差は認められなかった。すなわち,糖含有量は約45~80mg/dl,蛋白含有量は約0.2~0.4mg/dlであった。 各藻株の構成糖を比較するためシリカゲルGによる薄層クロマトグラフィーを行なった結果,ナフトレゾシル硫酸を用いた構成糖の比較では,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株およびP. stagnoraのB-1277株に同一Rf値の3スポットが検出され,一方,P. zopfiiのB-1266株およびP. wickerhamiiのB-1421,B-1280株では同一Rf値の2スポットが検出された。各藻株に共通するスポットはRf値0.68と0.46であった。また,過ヨウ素酸を用いた構成糖の比較では,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株およびP. stagnoraのB-1277株に同一Rf値の5スポットが検出され,一方,P. zopfiiのB-1266株は4スポット,P. wickerhamiiのB-1421,B-1280株では同一Rf値の2スポットが検出された。各藻株に共通するスポットはRf値0.68と0.42であった。 各藻株のアミノ類の比較をするためシリカゲルGによる薄層クロマトグラフィーを行なったところ,各藻株間の比較では,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株に同一Rf値の9スポットが検出され,P. zopfiiのB-1266株に5スポット,P. wickerhamiiのB-1421株に4スポット,B-1280株に8スポット,P. stagnoraのB-1277株に9スポットが検出された。各藻株に共通するスポットはRf値0.65,0.10,0.07と0.05であった。 各藻株の脂質の比較をするためシリカゲルGによる薄層クロマトグラフィーを行なった。展開後,脂質の検出は紫外線ランプにより行ったため得られた結果はキノン系脂質である。各藻株間の比較では,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株およびP. stagnoraに同一Rf値の2スポットが検出され,一方,P. zopfiiのB-1266株およびP. wickerhamiiのB-1421,B-1280株では同一Rf値の1スポットが検出された。各藻株に共通するスポットはRf値0.64であった。 供試藻株の抗原関係および診断価値のある血清診断法を調べる目的で行った実験の成績を以下に示す。各藻株の培養濾液抗原をウサギに免疫して得られた抗血清およびプロトテカ症牛から得られた血清と供試藻株のホモおよびヘテロ培養濾液抗原を用いて寒天ゲル内沈降反応を行った。その結果,プロトテカ症牛から得られた血清を用いた成績では,血清はホモである7918-1および8008-1株との間に沈降線を認めたほか,同一藻種であり同じ牛乳房炎由来であるB-1270株の培養濾液抗原とも反応した。一方,各藻株の培養濾液抗原に対する抗血清を用いた成績では,いずれの抗血清もホモの抗原に対して反応するが,このうちホモとのみ反応するのはP. zopfiiのB-1266株,P. wickerhamiiのB-1421株,P. stagnoraのB-1277株であった。しかし,残りのP. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株の抗血清は7918-1,8008-1,B-1270株の抗原と交差反応し,またP. wickerhamiiのB-1280株の抗血清は7918-1,8008-1,B-1270株の抗原と交差反応を示した。P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株間の反応はプロトテカ症牛から得られた血清を用いた成績と一致していた。このことから,供試した3藻種は寒天ゲル内沈降反応により5つに型別することができ,培養濾液は血清型抗原として優れていることが明かとなった。 各藻株のホルマリン処理抗原をウサギに免疫して得られた抗血清およびプロトテカ症牛から得られた血清と供試藻株のホモおよびヘテロ抗原を用いて蛍光抗体法を行った。その結果,プロトテカ症牛から得られた感染血清はP. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270,B-1266株およびP. wickerhamiiのB-1421株と反応したが,P. wickerhamiiのB-1280株およびP. stagnoraのB-1277株とは反応しなかった。一方,各藻株のホルマリン処理抗原に対する抗血清を用いた成績は,いずれの抗血清もホモばかりでなくヘテロにも反応した。すなわち,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株およびP. wickerhamiiのB-1421株の抗血清はすべての藻株と,P. zopfiiのB-1266株,P. wickerhamiiのB-1280株およびP. stagnoraのB-1277株の抗血清は,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株を除く他の藻株と反応した。これらの結果は蛍光抗体法の感度が高いために交差反応が広く起こることを示しているものと判断した。そこで,各抗血清をヘテロの抗原で吸収して蛍光抗体法を試みた。その結果,P. zopfii B-1266株,P. wickerhamii B-1421,B-1280株およびP. stagnora B-1277株の抗血清に含まれる交差反応性は吸収されてホモの抗原とのみ反応したが,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株はホモの抗原との反応も吸収された。そこで,これら藻株間が同一の抗原を有していることを考慮し,P. zopfii B-1266株,P. wickerhamii B-1421,B-1280株およびP. stagnora B-1277株の抗原で吸収したところ,P. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株に対する特異抗体が得られた。 3. Prototheca属の病原性 Prototheca属の病原性を知る目的で,ICR系のSPFマウスに対するLD_50を検討した。使用した藻株は7株で,P. zopfii 7918-1,8008-1,B-1270株およびP. wickerhamii B-1280株は病巣由来であり,P. zopfii B-1266株,P. wickerhamii B-1421株およびP. stagnora B-1277株は非病巣由来株である。その結果,Prototheca属は正常マウスでは10^10 cells/mlの静脈内(0.5ml),腹腔内(1.0ml),精巣内(0.1ml)接種のいずれにおいても斃死するものは認められなかった。すなわち,病巣由来株,非病巣由来株とも生体が正常な状態においては大量の藻が侵入してもすぐには死の機転をとらないことが明らかになった。そこで真菌感染実験にしばしば用いられてるプレドニン前処理によるLD_50の検索を試みた。その結果,マウスLD_50は病巣由来株で10^7.5 cells,非病巣由来株で10^8.5 cellsと大きく2つに区分された。以上のことから,病巣由来株は非病巣由来株よりもマウスに対する毒力の強いこと,またProtothecaを用いた感染実験を行う場合は病巣由来株およびプレドニン前処理マウスを用いる必要があることが明らかになった。 マウス体内における増殖像を検討するためマウスをプレドニン前処置群・ナイトロジエンマスタード前処置群・プレドニン+ナイトロジエンマスタード前処置群および無処置群の4群に分け,7918-1株の5×10^7 cells/0.1mlを尾静脈内接種し,肝臓・腎臓・脾臓・肺・脳における生藻数を求めた。各臓器におけるP. zopfii 7918-1株の生藻数から明らかなように,前処置方法の相違により臓器内の増殖像に明らかな差異が認められた。すなわち,プレドニン前処置群とブレドニン+ナイトロジェンマスタード前処置群マウスではいずれの臓器においてもナイトロジエンマスタード前処置群および無処置群よりも10^2~10^6オーダー以上の藻増殖が認められた。すなわち,好中球を特異的に抑制するとされるナイトロジエンマスタード前処置群では対照群と同様に藻の発育が抑えられていること,また,プレドニン前処置群とプレドニン+ナイトロジエンマスタード前処置群が同程度に組織内藻増殖が認められることから本藻感染防御の主体は網内系細胞であることが明らかとなった。一方,臓器別の生藻数で見た場合,プレドニン前処置群とプレドニン+ナイトロジエンマスタード前処置群マウスではいずれの臓器においても藻の増殖は認められ,10^4.46~10^7.50 cells/gの藻が生存していた。また,ナイトロジエンマスタード前処置群および無処置群においても腎臓に10^3.46~10^5.28 cells/g,脳に10^0.97~10^3.37,肺に10^0.60~10^0.78 cells/gの藻が生存していた。 以上のことから,本藻が生体内に血流によって侵入した際の標的臓器はCandidaやAspergillusの実験感染と同様に腎臓および肺であり,また正常マウスにおいても腎臓および脳では本藻が比較的長期に亘って生存することが明らかになった。 P. zopfii 7918-1株感染マウスの病理組織学的所見は上記のPrototheca属の生体内増殖像とよく一致した結果であった。すなわち,プレドニン前処置群とブレドニン+ナイトロジエンマスタード前処置群マウスでは各臓器にPAS染色でよく染まる藻体が多く認められ,特に腎臓での藻の増殖が特徴であった。一方,ナイトロジエンマスタード前処置群と対照群では腎臓においてマクロファージに取り囲まれた藻体が観察されたがその病変はごく一部に限局されていた。その他の臓器の病理組織像では藻体は観察されなかった。 生体内増殖像と病理組織像の結果から本藻の生体内での感染には食細胞,特にマクロファージが重要な役割を果していることがわかった。そこで,このことを証明するためにin vitroにおいて好中球およびマクロファージをそれぞれ分離し,本藻と混合培養した時の細胞外生藻数・食藻率・細胞内生藻数を比較することにより本藻感染への役割を検討した。 マウス好中球へのP. zopfii 7918-1株接種時を0時間として細胞外生藻数を調べたところ,漸次減少し2時間目で最低値に達し,以後増加した。この時の食藻率は細胞外生藻数とは逆に2時間目に最高値を示した。細胞内生藻数の減少は2時間目で止まり,以後は細胞内で増殖した。 マウスマクロファージでの細胞外生藻数および食藻率は2時間目で好中球と同様であったが,細胞内生藻数は好中球の場合とは異なり漸次減少する傾向を示した。なお,好中球の細胞内生藻数は明らかにマクロファージでの細胞内生藻数より多かった(P<0.01)。以上のような成績から,食細胞による感染防御は好中球ではなくマクロファージによってなされていることが明らかになった。 4. 抗プロトテカ剤 プロトテカ症の病型は表在性のものから深在性に至るまで多彩であるが,それらの治療に関する成功例の報告はほとんどない。その理由の1つとして,Prototheca属に対する感受性薬剤の詳細な研究がなされていないことが挙げられる。そこで,Prototheca属の各藻種を用いて代表的な抗細菌剤および抗真菌剤に対する感受性試験を実施し,どの薬剤に対して感受性を有するかを検討した。 7種の抗細菌剤に対する各藻株のMICでは,ストレプトマイシンおよびカナマイシンがすべての藻株に対して50μg/mlレベルの抗藻活性を有する以外は,すべての藻株に有効な薬剤はなかった。テトラサイクリンはP. zopfii B-1266株およびP. stagnora B-1277株にのみ50μg/mlのMICを示した。その他のアンピシリン,クロラムフエニコール,ペニシリンG,エリスロマイシンに対しては,供試藻株は100μg/ml以上の耐性を示した。13種の抗真菌剤に対する各藻株のMICを検討した結果,すべての供試藻株が100μg/ml以上の耐性を示すものはグリセオフルビン,トルナフテート,5-フルオロサイトシンの3剤で,その他は感受性を示した。供試藻株に抗藻活性を有するものの中でも,アンホテリシンB,ナナオマイシンAが0.8~3.2μg/mlと最も高く,続いてナイスタチン:1.6~6.25μg/ml,ミコナゾール:6.25~12.5μg/ml,バトラフエン:6.25~25.0μg/ml,CN-146:12.5~25.0μg/ml,ケトコナゾール:6.25~50.0μg/mlの順であった。また,クロトリマゾールのMICはP. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270には100μg/ml以上であったが,その他の藻株に対しては3.2~6.25μg/mlという独特な抗藻活性を示した。一方,同一薬剤に対する藻株間での感受性という側面からこの成績を見た場合,クロトリマゾールほどではないが,いずれの抗藻活性を有する薬剤もP. zopfiiの7918-1,8008-1,B-1270株は他の藻株よりも2~4倍の耐性があることがわかった。 上述の研究成績から本藻類の自然界における生態が明らかとなった。また,分類に関しては形態学的および生理生化学的性状からはPrototheca属が多様性を示すことから,最も簡単な同化能試験によりP. zopfii,P. wickerhamii,P. stagnoraの3藻種に分類することが妥当であるとの成績であった。一方,発育温度・細胞酵素活性・藻株の由来・細胞構成物質などに認められる同種藻株間での明らかな相違は,その異なる性状に一致してゲル内沈降反応および蛍光抗体法のいずれにおいても免疫学的に属内を5つに型別できた。したがって,Prototheca属が3藻種,5血清型に再分類できることを明らかにした。さらに,プロトテカ症の病因論的検討をin vitroにおける食細胞を用いて明らかにするとともに,本症の治療に対する基礎的データーとなる薬剤の比較試験をも検討し,明らかにした。

Prototheca was first reported by Kruger in 1894 to be nonpigmented unicellular organisms isolated from the slime flux of trees. They were considered to be yeast because their colony were similar to that of yeast, and classified into 2 species, Prototheca zopfii and P. moriformis. In 1916, Prototheca was reclassified as algae because these spore is internally in multiplication identical to that of Chlorella. Number of studies related with the difference between the genus Prototheca and Chlorella, had been investigated and it is now generally considered that the genus Prototheca developed from Chlorella at some point in mutation. Prototheca have been isolated from slime flux of trees, feces in animals and human, potato skin, stream water, sludges in waste stabilization pond, diseased tissue associated with animal and human. The investigations of Prototheca concerning to classification have been performed in view points of morphology, physiology, biochemistory and serology. From these results, the species of Prototheca were classified as 7 species(P. zopfii, P. moriformis, P. portoricensis, P. ciferii, P. wickerhamii, P. segbwema, P. stagnora) in 1968, 5 species(P. filamenta, P. zopfii, P. wickerhamii, P. moriformis, P. stagnora) in 1972, and 3 species(P. zopfii, P. wickerhamii, P. stagnora) in 1975. However, Pore, R.S. reported in 1983 that the Prototheca species reclassified into 4 species(P. zopfii, P. moriformis, P. wickerhamii, P. stagnora) from the result of morphological and physiological characteristics). As above describe, the consensus of opinion concerned with the classification of Prototheca is not established in present. This study dealed with morphological, physiological, biochemical serological characteristics for the classification of Prototheca species. Protothecosis is included the opportunistic infection as well as almost of mycoses. There are now various types infections being caused by Prototheca species. Protothecosis have been reported in cattle, dog, deer, fish and human. Especially, many cases have been found in bovine mastitis and disseminated disease of dog. Therefore, Protothecosis is an important disease in veterinary medicine. However, there are a few reports concerning with the pathogenicity of Prototheca inspite of many cases have been reported. Moreover, there is a small number of study concerning to sensitivity against antimicrobial agents. In this study, the experimental infection in mice and in vitro phagocytosis using peritoneal exudate cells were examined. Moreover, the comparison study of sensitivity to several therapeutic agents against Prototheca is investigated. These results in this study were described as follows;1. Ecological study of the genus Prototheca in nature. It is a fact that Prototheca is isolated from natural sources, yet there has been no systemic investigation into the ecology of Prototheca, especially in Japan. An ecological study is one of importance for several reasons. Sabouraud's dextrose agar, Prototheca isolation medium(PIM) and modified PIM(mPIM) were used for isolation of Prototheca from natural sources. The isolation rates in PIM and mPIM were superior to its in SDA. Namely, the organisms are isolated from 10(SDA), 30(PIM) and 40%(mPIM) in pond; 2, 10 and 14% in slime flux of trees; 16, 42 and 50% in stream water; 0, 4 and 8% in soil, but not from 572 samples of milks.2. Algological characteristics of Prototheca. Prototheca species are microscopic, achlorophyllos single-celled organisms whose a life cycle(Autospore formation) similar to that of the genus Chlorella. Maturely single-cell(mother cell) produce internally several endospores(daughter cell). Thus, the life cycle and morphology of Prototheca species were examined by means of light microscopy, scanning electron microscopy and transmission microscopy. In light microscopic finding, the mother cell of P. zopfii 7918-1, 8008-1, B-1270 isolated from lesions were ellipsoidall, but that of P. zopfii B-1266 was ellissoidall-globose ,and P. wickerhamii and P. stagnora were globose. It was characterization that in comparison of daughter cell, the sharp and number ware variable between species, within species and within strain. All Prototheca species showed smooth surface by the observation using scanning electron microscopy. The cell wall of mother cell was east to rupture. The sharp of Prototheca species were identical to the observation of light microscopy. That is, the differences of sharp were observed within species, i.e. 7918-1, 8008-1, B-1270 isolated from lesion were large-ellisoidall, while B-1266 isolated from nature was small ellipsoidall-globose. In transmission electron microscopic finding, nucleus, granular material and mitochondrion were observed and the ultra structural feature was that the cell wall was composed of two layers. Eight strain were examined for cultural characteristics. All of them were found to be achlorophyllous, multiply by autospore formation, inhibited growth by cycloheximide and stimulated growth by vitamin B1. They grew well on SDA and their colonies were identical to that of yeast. The colony color in P. zopfii changed from white to brown-yellow during long time incubation. Of P. wickerhamii, B-1421 showed granule-like colony in different of B-1280 produced cream colony. In growth temperature, 7918-1, 8008-1 and B-1270 grew on SDA ranged at 15 to 42℃, but B-1266 not at 36℃. For P. wickerhamii, B-1280 grew at 15 to 42℃, but B-1421 was inhibited the growth at 15 and 42℃. The assimilation of 19 carbon sources in Prototheca species was examined by using API 20C system. All strains assimilated glucose as carbon source. Galactose was utilized by P. zopfii and P. wickerhamii. Treharose was assimilated by only P. wickerhamii. Prototheca was classified into 3 species by using API 20C. The enzymatic profile of Prototheca species was examined using the API ZYM system. P. zopfii 7918-1, 8008-1 and B-1270 showed the same enzymatic profile. While the other strains were difference in enzymatic profile within species and strains. Namely, esterase(C4),esterase lipase(C8), leucine arylamidase, phosphatase acid, phosphoamidase and minimal activities of phosphatase alkaline, lipase(C14) were detected from 7918-1, 8008-1 and B-1270; esterase(C4), esterase lipase(C8), lipase(C14), leucine arylamidase and minimal activities of phosphatase alkaline, valine arylamidase, phosphatase acid, phosphoamidase were detected from B-1266; phosphatase alkaline, esterase(C4), esterase lipase(C8), leucine arylamidase, phosphatase acid, phosphoamidase and minimal activities of trypsin were detected from B-1421; esterase(C4), Esterase lipase(C8), phosphatase acid, phosphoamidase and minimal activities of phosphatase alkaline, leucine arylamidase, trypsin were detected from B-1280; esterase(C4), phosphatase acid, phosphoamidase and minimal activities of phosphatase alkaline, esterase lipase(C8), trypsin were demonstrated from B-1277.None of the other enzymes(Cystine arylamidase, chymotrypsin, α-galactosidase, β-galactosidase, β-glucronidase, α-glucosidase, β-glucosidase, N-acetyl-β-glucosaminidase, α-mannosidase, and α-fucosidase) were demonstrated in any species.from this result, the API zym system was non-useful for the identification of Prototheca species, but useful for the judgment of the genus. Quantitative protein and sugars which composed of Prototheca were no significant difference between strains except for B-1421 and B-1270. Quantities of protein and sugar were 45 to 80 mg/dl and 0.2 to 0.4 mg/dl, respectively. In comparison of sugar using thin layer chromatography with naphtorezocinol-sulfate, 7918-1, 8008-1 B-1270 and B-1277 were found identical 9 spots, while B-1266, B-1421, B-1280 were 2 spots. In comparison of sugar with iodine, 7918-1, 8008-1, B-1270 and B-1277 were detected 5 spots, B-1266 was 2 spots, B-1421 and B-1280 were 2 spots. In comparison of amino acid, Rf values were detected nine in 7918-1, 8008-1, B-1270 and B-1277, five in B-1266, four in B-1421, and eight in B-1280. In comparison of lipid, Rf values were two in 7918-1, 8008-1, B-1270, B-1277 and one in B-1266, B-1421, B-1280. The constituents of sugar, amino acid and lipid were recognized significant difference within strains except for 7918-1, 8008-1 and B-1270. The serological relationship of Prototheca strains was investigated by gel immunodiffusion and indirect immunofluorescence tests. The antisera obtained from bovine mastitis with Prototheca reacted with homologous antigen(7918-1, 8008-1) and antigen of B-1270. On the other hand, antisera against B-1266, B-1421 and B-1277 reacted with homologous antigen, but remaining antisera not only with homologous but also with heterologeous antigens. Antiserum of B-1270 reacted with homologous antigen and heterologous antigens of 7918-1 and 8008-1, but not with the other antigens.The reaction of B-1270 was identical to that of 7918-1 and 8008-1. These strains examined were designated into 5 serotypes by gel immuno diffusion test. In indirect immunofluorescence test, antiserum of diseased cow reacted with all antigens except for B-1280 and B-1277. On the other, antisera made with formalized antigen reacted not only with homologous antigen but also with heterologous antigens. Namely, antisera of 7918-1, 8008-1 B-1270 and B-1280 reacted with all of heterologous antigen, and its of B-1266, B-1280 and B-1277 reacted with B-1421. Thus, antisera were absorbed with each of heterologous antigens. Specific antisera reacting with only homologous antigen were obtained in B-1266, B-1421 ,B-1280 and B-1277, respectively. However, the reactions of 7918-1 and 8008-1 were completely absorbed with antigen of B-1270. Like this, these strains were designated 5 serotypes as well as result of gel immunodiffusion test.3. Pathogenicity of Prototheca. This study was designated to clarify the virulence of Prototheca species for mice, the method for production of experimental protothecosis and the defense mechanism against protothecosis by peritoneal exudate cells in vitro. Comparison was made on the virulence of Prototheca species for mice by calculating LD_50 value. None mice injected with 10^10 cells died. Therefore, mice were pretreated with predonine(1 mg/Kg) before infection. The LD_50 of strain derived from lesion was 10^7.5 cells, whereas that of strain derived from nature was 10^8.5 cells. It was proved that virulence and avirulence strain existed within Prototheca species and mice should be pretreated with predonine for production of experimental protothecosis. Multiplication of organisms in mice pretreated with predonine, nitrogen mustard, predonine plus nitrogen mustard or not were compared with number of viable counts in organs. The organisms of organs in mice pretreated with predonine or predonine plus nitrogen mustard were isolated more than 10^2 to 10^6 in compared with its in mice pretreated with nitrogen mustard or not. This result revealed that P. zopfii was inhibited by the reticuoendothelial system. The viable counts of organs in mice pretreated with predonine or predonine plus nitrogen mustard were 10^4.46 to 10^7.5 cells/g. In mice pretreated with nitrogen mustard or not, the organisms were isolated 10^3.46 to 10^5.20 cells/g from kidney, 10^0.97 to 10^3.37 cells/g from brain and 10^0.60 to 10^0.70 cells/g from lung, respectively. From these results, it was proved that the target organs were kidney and lung as aspergillosis and candidiasis when it intravenously invaded, and the organisms survived for long time in kidney and brain. Histopathologically, the lesion was identical to the result of viable counts. Namely, mainly lesion were found in kidney. The relationship between Prototheca and mouse peritoneal exudate cell was examined to clarify the defense mechanism of phagocytosis in vitro. There were no significant differences in the rate of phagocytosis and extracellular viable counts between polymorphonuclear cell(PMN) and macrophage, whereas a significant difference in the intracellular viable counts(P0.01). That is, the intracellular viable counts in macrophage decreased after 2 hr., while its in PMN increased. It was demonstrated that the important phagocytes in defense mechanisms was not PMN but macrophage.4. In vitro antiprotothecal activity of drugs. The protothecosis indicated various types from surface to disseminated infection. However, there is a few reports concerning to therapeutics, since detailed investigation related with sensitivity test against Prototheca was not performed. Thus a total of 20 antibacterial and antifungal drugs were examined to clarify the antiprotothecal activities. The MICs of streptomycin and kanamycin were 50 mcg/ml for Prototheca species. The growth of all strains were not inhibited with the other drugs. tetracycline had MIC of 50 mcg/ml for only B-1266 and B-1277. Prototheca had sensitivity to antifungal agents except for griseofulvin, trinaftate and 5-fluorocytocine indicating MICs of more than 100 mcg/ml. The MICs of antifungal agents for Prototheca species ranged from 0.8 to 3.2 mcg/ml in amphotericin B and nanaomycin, 1.6 to 6.25 mcg/ml in miconazole, 6.25 to 25 mcg/ml in batrafen, 12.5 to 25 mcg/ml in CN-146 and 6.25 to 50 mcg/ml in ketoconazole, respectively. The MIC of clotrimazole ranged from 3.2 to 6.25 mcg/ml for the other strains except for 7918-1, 8008-1 and B-1270. The MICs of strains derived from lesion indicated a resistance of ranging from twofold to fourfold in compared with these of strains derived from nature. From the results of this study, it was revealed the conclusions as follows,1) Ecology of Prototheca, 2) Genus Prototheca is able to classify into 3 species(P. zopfii, P. wickerhamii and P. stagnora) by simple method of API 20C system. 3) Genus Prototheca is able to distinguish 5 serotypes by gel immunodiffusion and indirect immunofluorescence tests. 4) In vitro defense mechanism of phagocytosis against Prototheca with peritoneal exudate cells. 5) In vitro effective antiprotothecal drugs.

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000024980
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000025014
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000189294
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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