気相から成長する氷結晶の成長機構と晶癖変化

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著者

    • 清, 忠師 セイ, タダノリ

書誌事項

タイトル

気相から成長する氷結晶の成長機構と晶癖変化

著者名

清, 忠師

著者別名

セイ, タダノリ

学位授与大学

名古屋大学

取得学位

理学博士

学位授与番号

乙第3626号

学位授与年月日

1989-08-03

注記・抄録

博士論文

雪結晶の形態上成長条件との関係は、気象学的側面ばかりでなく結晶成長学的にも興味深い問題である。このうち、低温低圧空気中で氷結晶を成長させる実験は、氷結晶の成長機構の研究を可能にし、南極や高層大気中での雪結晶の研究にとっても重要である。本研究では、0~-300℃の温度領域で、水分子の体積拡散の抵抗を無視できる40Paの低圧空気中で、しかも結晶化の際に放出される潜熱の輸送抵抗を無視できる下地物質上に多面体氷晶を成長させて、その晶癖変化の温度依存性を研究した。下地物質上で氷結晶を成長させる実験は、潜熱の輸送の方法が天然の雪結晶とは大きく異なる。しかしながら、この方法は成長温度や過飽和度を正確に決めることができること、また成長時の氷結晶の外形と表面構造の時時刻刻の変化を観察できると言う大きな利点がある。本研究では種々の温度で成長する多面体水晶の(0001〉面と(10\bar{1}0〉面の法線成長速度、および結晶表面上のステップの過飽和度依存性の測定を行い、これらの測定結果と種々の結晶成長理論を比較した。更に結晶表面のその場観察を行って多面体水晶の成長機構を明らかにした。また、氷結晶の成長形に及ぼす空気圧の影響を調べるために1.0×10^5 P a(1気圧)の空気中で氷結晶を成長させる実験も行い、低圧空気中での実験結果と合わせて、氷結晶の晶癖変化の温度依存性、南極での雪結晶の成長形について議論した。氷晶成長の実験は氷飽和点と融点を実験毎に確認して、マイクロコンピューターによる温度、温度差の自動計測を行い、高い精度で温度、過飽和度を制御した。顕微鏡には、表面の僅かな凹凸を検出することのできる反射型微分干渉顕微鏡を使用し、氷結晶表面上の成長丘、蒸発ピット、ステップ運動等を観察した。また、テレビカメラ、ビデオ装置を使用して、ステップの前進速度の過飽和度依存性を測定した。体積拡散の抵抗を無視できる40Paの低圧空気中で、0~-30℃の温度領域でほぼ一定の過飽和度で氷結晶を成長させたところ、-30℃では多面体の角柱、-15℃では多面体の角板、-7℃では多面体の角柱、約-3℃以上では再び角板が成長し、多面体水晶の晶癖変化は温度に著しく依存していた。低圧空気中での氷結晶の晶癖変化の温度依存性をより一層詳しく調べるために、同一結晶を用いて、一定の過飽和度(1.9%)で温度のみを連続的に変える実験を行った。この時、結晶のサイズを揃えるために、温度を変えるごとに氷結晶をゆっくりと蒸発させ、約50~100μmの球状水晶にした後、再成長させて氷結晶の晶癖変化を調べた。結晶の個体差まで考慮したこのような実験はこれまでに行われた例がなく、本研究は氷結晶の晶癖変化の温度依存性の一歩前進した研究であると言える。次に、多面体水晶の晶癖変化の温度依存性の機構を明らかにするために、{0001}面と{10\bar{1}0}面の法線成長速度とこれらの面上のステップの前進速度の過飽和度依存性を種々の温度で測定した。氷結晶の法線成長速度は、大きさ300μm、C軸方向とa軸方向の長さの比が0.6<c/a<3.0の種々の結晶の場合と、同一氷結晶の成長と蒸発を繰り返した場合について過食包和度の関数として測定した。測定結果と種々の成長理論とを比較した結果、次の結論が得られた。-30、-15、-7℃の各温度で成長する多面体氷晶の{0001}面と(10\bar{1}0)面の法線成長速度の過飽和虔依存性は、裸の面のB C F理論に非常に良く一致した。また-3.1、-1.9、-1.0℃で成長した氷結晶の{0001}面と{10\bar{1}0}面の法線成長速度の過飽和度依存性を成長理論と比較した結果、-3.1、-1.9℃で成長した氷結晶の{0001}面は裸の面のB C F理論と良く一致し、-1.0℃で成長した氷結晶の{0001}面は、結晶表面上に疑似液体相が存在し、疑似液体相と固相の界面にらせん転位が露頭する理論(Ⅴ-Q L-S理論)と良く一致した。一方、(10\bar{1}0)面の場合は-1.9℃を境にして、裸の面のB C F理論からⅤ-Q L-S理論へ変化することがわかった。また、法線成長速度の測定と平行して行った微分干渉顕微鏡を用いた氷結晶表面のその場観察によって、らせん転位の露頭に伴う成長丘、蒸発ピット、ステップなどの挙動を測定することができた。即ち、氷結晶の成長と蒸発を交互に繰り返すと、成長丘に対応した場所に蒸発ピットが形成され、その逆も成り立つこと、また成長中、他の成長丘からはき出されたステップに覆い隠された成長丘は、その後再び活性化して同じ場所から出現すること、更に、過飽和度をゆっくり下げると、成長丘の中心から連続的にミクロステップが湧き出すこと等の観察結果から、氷結晶表面上に観察された成長丘はらせん転位に対応する事がわかった。以上の40Paでの実験結果から、多面体氷晶の{0001}面と{10\bar{1}0}面は共に約-2℃以下の温度では裸の表面のらせん転位機構(B C F機構)、約-2℃より高温では疑似液体層を伴ったらせん転位機構(Ⅴ-Q L-S機構)によって成長していることがわかった。従って、氷結晶の晶癖変化の温度依存性を、{0001}面と{10\bar{1}0}面の成長機構の温度依存性の違いによって説明することは出来ない。多面体氷晶が晶癖変化する過飽和度での{0001}面と{10\bar{1}0}面の成長機構を吟味した結果、晶癖変化の温度依存性の説明の第1段階として、水分子の吸着のし易さを示す凝縮係数α_1の温度と面方位依存性が重要であることがわかった。ところで、地上に降ってくる雪結晶は40Paよりも高い圧力の空気中で成長している。雪結晶がごく小さいうちは、空気があることによる水分子の体積拡散の抵抗は無視でき、また潜熱の散逸も速やかであると考えられる。従って、核形成直後の雪結晶は40Paの低圧空気中の本実験と同様の成長を行うと考えられ、この際、基本的な晶癖が決定される。雪結晶が大きくなるに従って体積拡散の抵抗がきいて結晶の縁や角が優先的に成長し、骸晶氷晶や樹枝状水晶が成長すると考えられる。従って、1.0×10^5 paの空気中で成長する雪結晶の晶癖変化の温度依存性もまた凝縮係数α_1の温度と面方位依存性によって決まるはずである。本研究では空気の存在が氷結晶の成長形に及ぼす影響を研究するために、1.0×10^5 paの空気中で氷結晶を成長させる実験も行った。その結果、二次元核が形成されない低過飽和度であっても、らせん転位が結晶の角近くに露頭する時には骸晶氷晶が成長することがわかった。南極のように過飽和度が比較的低い地方では、二次元核機構による骸晶氷晶の他に、らせん転位機構によって形成される骸晶氷晶が降っているはずである。また、南極や高層で観測される非常に細長い角柱氷晶や非常に薄い角板氷晶、あるいは不等辺六角形の雪結晶等は、約2%以下の低い過飽和度で、雪結晶の特定の面にらせん転位が露頭することで説明できることがわかった。

名古屋大学博士学位論文 学位の種類:理学博士 (論文) 学位授与年月日:平成1年8月3日

目次

  1. 目次 (5コマ目)
  2. 副論文 (123コマ目)
  3. 副論文 (137コマ目)
  4. 副論文 (149コマ目)
  5. 副論文 (155コマ目)
  6. 副論文 (169コマ目)
  7. 副論文 (185コマ目)
  8. 副論文 (197コマ目)
  9. 参考論文 (231コマ目)
  10. 参考論文 (247コマ目)
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  12. 参考論文 (263コマ目)
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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000060821
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000060981
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000225135
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL ONLINE
    • NDLデジタルコレクション
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