航空機搭載アイスレーダによる南極氷床の電波散乱特性に関する研究

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著者

    • 浦塚, 清峰 ウラツカ, セイホ

書誌事項

タイトル

航空機搭載アイスレーダによる南極氷床の電波散乱特性に関する研究

著者名

浦塚, 清峰

著者別名

ウラツカ, セイホ

学位授与大学

北海道大学

取得学位

工学博士

学位授与番号

乙第3846号

学位授与年月日

1990-12-25

注記・抄録

博士論文

近年、全地球的な現象が文明社会に及ぼす影響について大きな関心を集めている。特に、地球上の氷の約90%を占める南極大陸の氷は過去および将来の気候状況や地球内部活動の歴史を知る手がかりであるにも拘らず、実地の探査が困難であるため南極氷床の様々な物理量を広域にモニタする事のできるリモートセンシング技術の開発が注目を集めてきている。その中で、1960年代に入り氷床の厚さを計測するセンサとして登場してきたアイスレーダは、航空機を用いた広域の調査に用いられてきた。 本研究は、新型の航空機搭載アイスレーダを開発し、南極氷床の観測を行なった。また、このレーダの新しい点の一つであるディジタル化したデータを生かした処理手法を開発した。さらに、定量的な評価を行なうために、これまで解析に用いられてきた簡易なレーダ方程式の代わりに、広いアンテナのビームパターンにも適用可能なレーダ方程式を導出した。次に、このレーダ方程式をもとに電波散乱特性を評価した。また、本研究ではアイスレーダでしばしば観測される内部層についてその特徴について新しい事実を見いだした。さらにそのこととこれまで知られている特徴から内部層の散乱メカニズムを最もよく説明するモデルを考察し、散乱が一次元のモデルで扱えないことを示した。本論文は、全部で7章からなり、各章の概要は以下の通りである。 第1章は序論であり、本研究のリモートセンシング研究の分野及び雪氷物理学研究分野に於ける位置づけをおこなう。次に過去のアイスレーダ観測による南極氷床の研究についての解説する。この中で、氷床の散乱特性についての研究の現状について触れ、本論文で論ずる手法の新規性と背景について述べる。  第2章ではまず、アイスレーダの設計上の留意点を明らかにするために、アイスレーダの原理を簡単に説明する。つぎに、開発したアイスレーダのハードウェアについて詳説する。さらに、このレーダの最も新しい点の一つである、ディジタルデータを利用して新たに開発した基盤エコーの自動読み取り及びディジタルZスコープ処理ソフトウェアについて述べる。これらの処理は、これまでのアイスレーダ観測のようにアナログのデータを読みとる作業と違って効率を大きく改善した。また、データの解釈にこれまでのアナログ記録では不完全だった受信強度の定量化による様々な側面からの検討が可能になった。  第3章では、南極氷床の散乱特性を調べる意味をさらにはっきりさせるため、電波の散乱特性に関する基礎的事項をおもにリモートセンシング技術の立場から紹介し、アイスレーダのデータとの関連について議論する。ここでは、表面散乱の理論と体積散乱の理論について電波科学的側面から検討した後、南極氷床の各部における散乱の形態について議論する。また、散乱特性を定量的に扱うための散乱係数を定義する。表面から及び底面からのレーダエコーの波形は散乱係数の入射角依存性と密接な関係があり、散乱係数の入射角依存性から表面の粗さを求めることが可能である。一方、氷床内部の散乱形態は、近似的には体積散乱として取り扱うことができるが詳細な散乱については、表面散乱的な要素が無視できない。  第4章では、ディジタル記録により可能になった、同じデータをAスコープとZスコープの両面から検討することによって、アイスレーダの受信波形を定性的に解析した。その結果、レーダの波形を表面散乱による部分、内部散乱による部分、底面からの部分の3つに分けて解析することができる。さらに、受信波形を定量的に扱うために、現実的なレーダ方程式を提案する。従来、アイスレーダの受信強度の解析に用いられてきたレーダ方程式は、非常にビーム幅の狭いアンテナを持つレーダに対しては有効であるが、実際のアイスレーダのアンテナのように有限のビーム幅がある場合には、現実的な式ではない。ここで、導出するレーダ方程式は、アイスレーダのアンテナのパターンなどハードウェアの特性を正しく考慮できる方程式で、ビーム幅の広いアンテナに対しても有効で拡張性の高いものである。  第5章では、新たに提案したレーダ方程式をもとにアイスレーダの波形から氷床の底面及び表面での電波散乱特性を求める方法について述べる。氷床底面の解析結果からは、特に棚氷地域に於て底面が非常に滑らかであることが判明した。さらに詳細に調べるとグランディングラインから離れるにつれてその傾向が顕著である。このことは、棚氷の底面での海水との相互作用の程度を示すものとして重要な結果である。また、棚氷地域に特に観測される、2回反射エコーから棚氷の表面での透過係数を求めた。従来、透過係数は小さいとして無視されてきたが、この結果から最大約10dBの損失があることが明らかになった。電波散乱特性は、氷床の物性的性質を実際の氷のサンプルなしに推定する技術を確立するための基礎資料となる。  第6章では、白瀬氷河上流域およびやまと山脈近くで観測された内部層のデータのZスコープとAスコープのデータの両方を用いて、レーダのパルス幅を変えた場合の内部層の受信波形の違いを詳細に検討し、(1)パルス幅を変えた場合のエコーのピーク位置はほぼパルス幅の時間差に等しい(2)エコーのピークがはっきりしなくなる場合でもバックグラウンドの散乱はあまり変化しないというこれまで報告されていない新たな特徴を見いだした。これは、ディジタル収録によって初めて可能になったものである。つぎに、この新しい事実を用いて氷床内部層の散乱のメカニズムを明らかにするために、散乱のモデルをたて、散乱メカニズムを考察した。これまでの内部層のモデルには、パルス幅を変化させた場合の内部層エコーのピーク値の変化やエコー幅の広がりなどを十分説明できていない。ここでは、氷床内部での散乱の形態を(1)薄い散乱面の広がりによってピークが生じるとする場合と(2)鏡面散乱をする細かい層によって形成される厚みを持った反射帯によってピークが生じる場合の2通りの形態に基づくモデルを立て、それぞれについて主にパルス幅の違いによる受信波形の特徴を調べて検討する。これらのモデルの検討の結果は、内部層エコーのピークと氷床の領域を対応させるためには、入射角の大きいものからの散乱の効果が無視できないことを示唆している。  第7章は結論であり、本研究で議論された氷床の電波散乱特性について、その雪氷学的な意味を議論する。また、この手法の問題点について述べる。さらに、将来の氷床の電波リモートセンシング技術について本研究で得られた結果をもとに展望する。

xvi, 210p.

Hokkaido University (北海道大学). 博士(工学)

目次

  1. 目次 / p5 (0007.jp2)
  2. 1 序論 / p1 (0019.jp2)
  3. 1.1 リモートセンシングによる雪氷研究 / p5 (0023.jp2)
  4. 1.2 電波による南極氷床の研究 / p7 (0025.jp2)
  5. 1.3 新型アイスレーダの開発とそれによる氷床計測 / p11 (0029.jp2)
  6. 1.4 本論文の目的と構成 / p14 (0032.jp2)
  7. 2 航空機搭載アイスレーダシステムとデータ処理 / p17 (0035.jp2)
  8. 2.1 アイスレーダの原理 / p19 (0037.jp2)
  9. 2.2 179MHz航空機搭載アイスレーダ装置 / p27 (0045.jp2)
  10. 2.3 エコーの自動判定 / p40 (0058.jp2)
  11. 2.4 断面図作成と画像処理 / p46 (0064.jp2)
  12. 2.5 まとめ / p53 (0071.jp2)
  13. 3 氷床の電波散乱特性の問題点 / p56 (0074.jp2)
  14. 3.1 2つの散乱のメカニズム / p57 (0075.jp2)
  15. 3.2 南極氷床での散乱と問題点 / p64 (0082.jp2)
  16. 3.3 まとめ / p76 (0094.jp2)
  17. 4 受信波形とレーダ方程式 / p78 (0096.jp2)
  18. 4.1 受信波形 / p80 (0098.jp2)
  19. 4.2 基盤地形と受信波形の解釈 / p90 (0108.jp2)
  20. 4.3 レーダ方程式 / p94 (0112.jp2)
  21. 4.4 まとめ / p106 (0124.jp2)
  22. 5 アイスレーダによる氷床の電波散乱特性の解析 / p108 (0126.jp2)
  23. 5.1 散乱特性の解析手順 / p110 (0128.jp2)
  24. 5.2 散乱特性解析結果 / p114 (0132.jp2)
  25. 5.3 棚氷の多重散乱による氷床表面の透過係数の解析 / p123 (0141.jp2)
  26. 5.4 まとめ / p130 (0148.jp2)
  27. 6 氷床内部反射層の散乱 / p133 (0151.jp2)
  28. 6.1 これまでの内部層エコーの研究と問題点 / p135 (0153.jp2)
  29. 6.2 内部層の散乱モデル / p156 (0174.jp2)
  30. 6.3 まとめ / p170 (0188.jp2)
  31. 7 結論 / p173 (0191.jp2)
  32. 7.1 散乱特性結果と南極氷床 / p175 (0193.jp2)
  33. 7.2 氷床の電波リモートセンシングの展望 / p178 (0196.jp2)
  34. 参考文献 / p182 (0200.jp2)
  35. 謝辞 / p196 (0214.jp2)
  36. 付録 / p197 (0215.jp2)
  37. A 氷床のレーダ方程式の導出 / p197 (0215.jp2)
  38. A.1 氷床内の点目標 / p197 (0215.jp2)
  39. A.2 氷床底面 / p200 (0218.jp2)
  40. A.3 体積散乱をする氷床内部 / p201 (0219.jp2)
  41. B 氷床下のパルス照射面積 / p205 (0223.jp2)
  42. B.1 最大照射面積 / p205 (0223.jp2)
  43. B.2 ドーナツ状の照射面積 / p208 (0226.jp2)
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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000072369
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000072563
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000236683
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
    • NDLデジタルコレクション
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