電子貯蔵リングにおけるマイクロパーティクルのトラッピング現象の観測と解析 Observation and analysis of microparticle trapping phenomena in an electron strage ring
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Bibliographic Information
- Title
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電子貯蔵リングにおけるマイクロパーティクルのトラッピング現象の観測と解析
- Other Title
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Observation and analysis of microparticle trapping phenomena in an electron strage ring
- Author
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佐伯, 宏
- Author(Another name)
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サエキ, ヒロシ
- University
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総合研究大学院大学
- Types of degree
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学術博士
- Grant ID
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甲第30号
- Degree year
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1992-03-31
Note and Description
博士論文
本文は、電子貯蔵リングにおいて、ビームダクト内のマイクロパーティク<br />ルが電子ビームへ吸収され、ビーム寿命を急激に短縮させる現象について述べ<br />たものである。<br /> 高エネルギー物理学研究所のトリスタン電子・陽電子衝突リングの入射蓄積<br />リングARでは、電子貯蔵運転中にビーム寿命が突然短縮し、そのまま復帰し<br />ない現象ならびに短時間のビーム寿命の短縮がしばしば観測され、ビームダク<br />ト内に残留するマイクロパーティクルのトラップによると思われるビーム電流<br />値の微少現象がしばしば観測されている。 こうした現象は、精密化した物理実<br />験やシンクロトロン放射光利用実験にとって大きな障害となり、世界各地の電<br />子貯蔵リングで大変な問題となっている。 しかしながら、マイクロパーティク<br />ルのトラッピング現象の本格的な観測や実験、その理論的考察などについては<br />ほとんど行なわれていなかった。 そこで、 ビーム寿命が短縮する現象は、トラッ<br />プされたマイクロパーティクルがビーム軌道周辺で運動するためと推測し、 A<br />Rにおいてその機構解明を試みた。<br /> ビームダクト内に残留するマイクロパーティクルは、光子の散乱照射による<br />光電子放出で正電荷を与えられ、電子ビームがつくる電場の吸引力によりトラ<br />ップされると考えられる。また。トラップされたマイクロパーティクルと電子<br />ビームとの衝突では、残留ガスによる制動放射に比べてはるかに多量の制動放<br />射(ガンマー線)を観測することができると期待される。さらに、数秒間程度の時間範囲<br />での制動放射を観測することで、ビーム軌道周辺でのマイクロパーティクルの<br />運動が推測できると考え、鉛ガラスカウンターを使用した制動放射の観測を行<br />なった。 その結果、観測例は2例であるが、ビーム寿命が短縮し持続した状態で、<br />電子ビームのバンチ信号に対応した高エネルギーの制動放射の信号、マイクロ<br />パーティクルがビームを上下に通過したと考えられる時間幅0.1-0.2ms<br /> の信号と特徴的な2連の1-2秒周期性のある信号を観測した。 また、観測<br />された信号の電圧は6.5GeV (ビームエネルギー)のガンマー線のそれよ<br />りはるかに高いものであった。 さらに、観測結果からマイクロパーティクルが<br />0.05-0.2m/s の速度で電子ビームの進行方向に移動していることが<br />観測された。<br /> 一方、ARにおけるマイクロパーティクルのトラップする条件、トラップさ<br />れうる大きさとそのビーム軌道周辺での運動の解析をMarinの式を用いて<br />行なった。 ビーム直下にマイクロパーティクルが存在し垂直上方に電気的に吸引<br />されると仮定して解析した。 それらの電荷をQ(Coulomb)、質量をm<br />(Kg)、電子ビームにより作り出されるビームダクト底面における電場を<br />E(V/m)とした場合、 ARにおけるマイクロパーティクルのトラップする<br />条件として得られたQE/mの値は1.85×105(Newton/Kg)となっ<br />た。パーティクルの表面に現れる電荷は光子エネルギーに依存する。 ビーム<br />ダクト内で採取されたマイクロパーティクルの多くはアルミニウム系とチタン<br />系で、吸収されうるパーティクルの大きさを試算した。 それらの形を球形とし<br />た時の計算では、材質がアルミニウムの場合、最大粒径は約100ミクロンで、<br />チタンの場合は約70ミクロンであった。 マイクロパーティクルのビーム軌道<br />周辺での運動を単純な垂直振動とした計算で、その運動周期は約0.7秒とな<br />り、2例の観測結果とほぼ一致した。<br /> ARにおいて、実際のビームダクトとイオンポンプ内で採取したサンプルの<br />マイクロパーティクル(サイズ50-100ミクロン)を挿入してのトラッピ<br />ング実験を行なった。 9回の実験で4回、サンプルのいくつかが電子ビームにト<br />ラップされたと考えられる短時間のビーム寿命の短縮とビームのバンチ信号に<br />対応した高エネルギーの制動放射の信号、マイクロパーティクルがビームを通<br />過したと考えられる信号を観測した。ビーム寿命の短時間の短縮は、トラップ<br />されたマイクロパーティクルが、ビーム損失による発熱で破壊されるためと推<br />測する。 また、 ARにおいてビーム寿命が回復しない場合は、マイクロパーテ<br />ィクルが発熱により破壊されずビーム軌道周辺を運動し続ける為と考えられ<br />る。<br /> ARにおいてビーム寿命が短縮した場合、2連の周期1-2秒の高エネルギ<br />ーの制動放射を観測した。 マイクロパーティクルのビーム軌道周辺での運動周<br />期は観測値とほぼ一致した。 また、トラップを考慮してビーム寿命を計算した<br />ところ観測値とほぼ一致した。 従って、ARで発生するビーム寿命が短縮し持<br />続する現象はマイクロパーティクルに起因していると結論できる。
application/pdf
総研大甲第30号
Table of Contents
- 目次 / p5 (0005.jp2)
- 論文概要 / p1 (0003.jp2)
- 本論文に使用せる記号 / p3 (0004.jp2)
- 目次 / p5 (0005.jp2)
- 第I章 緒言 / p1 (0006.jp2)
- I-A 序論 / p1 (0006.jp2)
- I-B マイクロパーティクルのトラッピング現象と思われる観測例 / p1 (0006.jp2)
- I-C 本研究の目的 / p7 (0009.jp2)
- 参考文献 / p9 (0010.jp2)
- 第II章 観測 / p11 (0011.jp2)
- II-A 序論 / p11 (0011.jp2)
- II-B 鉛ガラスカウンターとそのエネルギー較正 / p12 (0012.jp2)
- II-C 観測 / p15 (0013.jp2)
- II-D 考察 / p27 (0019.jp2)
- II-E まとめ / p30 (0021.jp2)
- 参考文献 / p30 (0021.jp2)
- 第III章 マイクロパーティクルの運動 / p32 (0022.jp2)
- III-A 序論 / p32 (0022.jp2)
- III-B 電子ビームヘトラップされるまでの過程 / p32 (0022.jp2)
- III-C 電子ビーム周辺でのトラップされたマイクロパーティクルの運動 / p36 (0024.jp2)
- III-D 近似計算と観測データとの比較ならびにその考察 / p37 (0024.jp2)
- III-E ビーム寿命についての考察 / p39 (0025.jp2)
- III-F まとめ / p40 (0026.jp2)
- 参考文献 / p41 (0026.jp2)
- 第IV章 ARでのマイクロパーティクルのトラッピング実験 / p42 (0027.jp2)
- IV-A 序論 / p42 (0027.jp2)
- IV-B 実験 / p42 (0027.jp2)
- IV-C 考察 / p46 (0029.jp2)
- IV-D まとめ / p50 (0031.jp2)
- 第V章 結言 / p52 (0032.jp2)
- 謝辞 / p53 (0032.jp2)
- 付録1 マイクロパーティクルのトラッピングの基礎実験 / p55 (0033.jp2)
- A 序論 / p55 (0033.jp2)
- B 実験装置 / p55 (0033.jp2)
- C 実験と結果 / p58 (0035.jp2)
- D 考察 / p60 (0036.jp2)
- E まとめ / p62 (0037.jp2)
- 参考文献 / p62 (0037.jp2)
- 付録2 ビームダクト内のマイクロパーティクルの調査 / p64 (0038.jp2)
- 付録3 参考文献 / p81 (0047.jp2)