ミオシン分子の構造変化とエネルギー変換機構に関する研究

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著者

    • 平塚, 祐一 ヒラツカ, ユウイチ

書誌事項

タイトル

ミオシン分子の構造変化とエネルギー変換機構に関する研究

著者名

平塚, 祐一

著者別名

ヒラツカ, ユウイチ

学位授与大学

北海道大学

取得学位

博士(理学)

学位授与番号

甲第4630号

学位授与年月日

1999-03-25

注記・抄録

博士論文

筋収縮はミオシンとアクチンの2つの蛋白質の相互作用により生じる。ミオシンはATP加水分解活性をもち、このATP加水分解によって得られた化学エネルギーを使ってアクチンフィラメントを動かす。ミオシン頭部はATP加水分解反応の各段階で2つの重要な仕事をすることが知られている。1つはアクチンとの結合解離で、もう1つはアクチンフィラメントに対する力発生である、この2つの仕事をうまく共役させることで、アクチンフィラメントを滑らかに動かしている。近年、この力発生はATP加水分解反応中にミオシン頭部の分子形状が大きく変わることで引き起こされるというモデルが提唱され注目されている。特に、そのミオシン頭部の形状変化の中心は、反応性の高いシステインで知られるCys707(SH1)またはCys697(SH2)を含む領域、いわゆるSH領域で引き起こされることがX線結晶構造解析で示された。そこで、本研究ではミオシン頭部内のこの領域に注目し、その構造変化を生化学的に解明し、筋収縮機構を明らかにすることを目的とした。第1章では、ミオシン頭部に存在するシステイン残基Cys707(SH1)付近の構造変化を調べるため、骨格筋ミオシン頭部(S1)のSH1の反応性を反応性蛍光試薬5-(iodoacetamidoethyl)aminonaphthalene-1-sulfonic acid(I-AEDANS)を用いて測定した。SH1の反応性はATPまたはADP添加により大きく変化した。その反応速度はヌクレオチド非存在下に比べ、ATP存在下では約2分の1に減少し、ADP存在下では約6倍の高い値になった。また、ATP加水分解反応の2つの中間体、M・ATP状態とM・ADP・Pi状態のSH領域の構造を知るために、S1と幾つかのATPアナログ(adenosine5'(3-thiotriphosphate)(ATPγS),ADP-vanadate(ADPV1),ADPBeFx、ADPA1F4)との複合体を作製しSH1の反応性を調べた。M・ATP状態のアナログと考えられているATPγSまたはADPBeFxとS1との複合体のSH1の反応性は非常に高く、M・ADP状態と同程度の反応性を示した。一方、M・ADP・Pi状態のアナログであるADPV1またはADPA1F4とS1との複合体のSH1の反応性は、反応が観測されないほど低い値となった。このSH1付近の構造変化はATP加水分解反応中のATPのγ位リン酸結合部位付近の構造変化に共役して引き起こされたと思われる。ミオシンの力発生はリン酸放出の段階で引き起こされると考えられており、このM・ADP・Pi状態からM・ADP状態へのSH1の反応性の変化はパワーストロークと密接に関連していると思われる。また、これらの他にヌクレオチド非存在下、アクチン存在下の反応性の低い分子種を加え、SH1付近には3つの異なった構造が存在することを示した。これらの結果から、パワーストロークはミオシン頭部の2段階の構造変化で引き起こされる可能性が示唆された。第2章では、SH1付近(SH領域)に存在する、多くの生物種間でよく保存されている芳香族性側鎖のクラスターの役割を調べた。この芳香族性側鎖のクラスターは細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)でも保存されており、細胞性粘菌のミオシン発現系を使ってそれらの側鎖をアラニンに置換した4つの変異ミオシン(F692A、Y737A、F739A、F745A)を作製した。もちいた細胞性粘菌のミオシン発現系では、発現しているミオシンのモーター活性を粘菌の表現型を観察することで予測することができる。そこで、粘菌の表現型として特徴的な子実体形成能を調べた。変異ミオシン、Y737A、F739A、F745Aを発現している粘菌の子実体形成能は、野生株と大きな違いが見られなかった。しかし、F692Aの場合、十分量のミオシンを発現しているにも関わらずミオシン欠損株(HS1)と同様に子実体の形成が観察されなかった。このことから、F692Aはミオシンのモーター活性に大きなダメージを与える変異であることが予想された。この予想が正しいことは、粘菌からこれら変異ミオシンを単離し、モーター活性をアクチン滑り速度解析法で直接測定することで明らかになった。ワイルドタイプミオシンではアクチンフィラメントの滑り速度は1.66±0.19(μm/sec)であった。しかし、F692Aのアクチン滑り速度は0.02±0.01(μm/sec)であり、ワイルドタイプミオシンのたった1%の滑り速度しか観察されなかった。このミオシンはATP加水分解能やアクチン結合解離能は保持しているので、このF692A変異は、ミオシンの力発生のステップに特に大きな欠陥を生じたと考えられた。この結果から、SH領域がミオシンのエネルギー変換に関係した機能領域である可能性がいっそう強められた。第3章では、ATP結合部位とSH領域の構造変化の関係について考察した。SH領域は、ATP加水分解反応中に3つの構造をとることを第1章で明らかにした。これらの構造は、SH1の反応性がほとんど見られない2つの分子種と、反応性が著しく高い1つの分子種からなる。これらの構造変化はATP結合部位内のどのような変化によって引き起こされるのかについて調べた。これらの構造変化のうち、反応性の高い分子種(M・ATP状態またはM・ADP状態)から反応性の低い分子種(M・ADP・Pi状態)への構造変化は、γ位リン酸結合部位の構造変化によって引き起こされる。一方、ヌクレオチド非存在下からM・ATP状態またはM・ADP状態になると、ともにSH1の反応性が上昇するが、これはATPのどの部分を認識して生じた結果なのかについて調べた。このSH1の反応性をあげる部位をつきとめるため、5種類のヌクレオチドアナログ(ADP、ATPγS、AMP、ピロリン酸、硫酸イオン)を使ってSH1の反応性を測定した。これら、ヌクレオチドアナログのうち、AMPを除く4種類、ADP、ATPγS、ピロリン酸、硫酸イオンはすべてSH1の反応性を高める働きをした。この4つのアナログはすべてATP結合部位のβ位リン酸結合部位内に結合すると思われ、SH1の反応性の上昇はβ位リン酸結合部位付近の構造変化によって引き起こされることが明らかになった。パワーストロークに働くミオシン頭部の大きな形状変化は、SH領域の構造変化によって生じる可能性がX線結晶構造解析で示唆されてきた。本研究では、このX線結晶構造解析で見られた構造変化をSH1の反応性の変化からもはっきりと示すことができた。さらに、細胞性粘菌を用いた変異ミオシン解析より、このSH領域が実際にパワーストロークに働く機能領域であることを生化学的に証明することができた。また、このSH領域には異なった3つの構造が存在するという、新しい知見が得られた。この3つの分子種は、ATP結合部位のβ位またγ位リン酸の付近の構造変化と連動して変化することを明らかにした。

94p.

Hokkaido University(北海道大学). 博士(理学)

目次

  1. 目次 / p2 (0003.jp2)
  2. 略語 / p3 (0004.jp2)
  3. 骨格筋ミオシンと粘菌ミオシンのアミノ酸配列の対応表 / p4 (0004.jp2)
  4. 要約 / p5 (0005.jp2)
  5. 序 / p8 (0006.jp2)
  6. 実験方法 / p14 (0010.jp2)
  7. 第1章 ミオシン頭部ATP加水分解中間体のSH領域の構造変化 / p27 (0016.jp2)
  8. 結果 / p28 (0017.jp2)
  9. 考察 / p38 (0022.jp2)
  10. 第2章 ミオシン頭部C末端領域に存在する芳香族側鎖のアラニン変異 / p45 (0025.jp2)
  11. 結果 / p47 (0027.jp2)
  12. 考察 / p66 (0039.jp2)
  13. 第3章 ATP結合部位からSH領域への構造変化パスウェイの探索 / p77 (0047.jp2)
  14. 結果 / p77 (0047.jp2)
  15. 考察 / p82 (0050.jp2)
  16. まとめ / p88 (0054.jp2)
  17. 参考文献 / p89 (0055.jp2)
  18. 謝辞 / p94 (0058.jp2)
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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000172188
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000172463
  • DOI(NDL)
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000000336502
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
    • NDLデジタルコレクション
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