新規イノシン-グアノシンキナーゼを用いたイノシン及びグアノシンのリン酸化による核酸系調味料の製造法

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著者

    • 川崎, 寿 カワサキ, ヒサシ

書誌事項

タイトル

新規イノシン-グアノシンキナーゼを用いたイノシン及びグアノシンのリン酸化による核酸系調味料の製造法

著者名

川崎, 寿

著者別名

カワサキ, ヒサシ

学位授与大学

東京大学

取得学位

博士 (農学)

学位授与番号

乙第15132号

学位授与年月日

2001-09-11

注記・抄録

博士論文

報告番号: 乙15132 ; 学位授与年月日: 2001-09-11 ; 学位の種別: 論文博士 ; 学位の種類: 博士(農学) ; 学位記番号: 第15132号 ; 研究科・専攻: 農学生命科学研究科

DNAやRNAの構成成分であるヌクレオチドの生合成中間体、イノシン5'−モノリン酸(5'-IMP,イノシン酸)ナトリウム、グアノシン5'−モノリン酸(5'-GMP,グアニル酸)ナトリウムは、それぞれ、鰹節のうま味成分、椎茸のうま味成分として知られている。これらは、昆布のうま味成分であるグルタミン酸ナトリウムとのうまみの相乗効果が知られており、核酸系調味料として、グルタミン酸ナトリウムと共に広く世界中で利用されている。核酸系調味料の需要は拡大の一途を辿っており、今後も継続した需要増が見込まれていることから、その製造方法についても更なる改善が求められている。現在の核酸系調味料の主たる製造法は、発酵生産したイノシンまたはグアノシンをPOCl3を用いてリン酸化する方法である。本研究では、新製法開発の第一段階として、リン酸化設備の簡略化が期待できる酵素的なイノシン及びグアノシンのリン酸化法の開発を行った。//第一章では、上記の本研究の背景及び意義について述べた。//第二章では、E. coli由来イノシンーグアノシンキナーゼを利用し、菌体の持つATP再生反応と共役させてイノシンのリン酸化を行うという近年報告された新しいイノシン酸製造方法についてその実用性の評価を行った。イノシンーグアノシンキナーゼ(ATP : guanosine 5'-phosphotransferase[E.C.2.7.1.73])は、ATPのγ位のリン酸基をイノシン及びグアノシンの5'位の水酸基に転移する反応を触媒し、5'−モノヌクレオチド、すなわち、イノシン酸(5'-IMP),グアニル酸(5'-GMP)を生成する酵素である。// イノシン、グアノシン+ATP→GMP, IMP+ADP//評価の結果、工業生産上の観点からも、本法によるイノシンのリン酸化は有用であることが確認された。しかしながら、同一条件でのグアノシンのリン酸化は認められず、本法によるグアノシンのリン酸化には大きな課題が存在することが明らかとなった。この原因が酵素特性に起因する可能性を検討するために、精製標品を用いて酵素の性質を詳細に解析した。その結果、本酵素は、反応生成物であるグアニル酸の他、GDPやGTPによって強く阻害を受けることが明らかとなり、このことがグアノシンのリン酸化が認められなかった原因のひとつと推定された。//第三章では、第二章で述べたグアノシンのリン酸化における課題を解決するために、第二章にて用いたE. coli由来イノシンーグアノシンキナーゼとは異なる性質を持つイノシンーグアノシンキナーゼの探索を行った。原核生物においては、イノシンーグアノシンキナーゼ活性についての報告は非常に限定された種に留まっている。この理由は、イノシン及びグアノシンの利用経路が2種存在し、同一細胞が両経路を併せ持つ場合があること及びイノシンーグアノシンキナーゼ活性が微弱であることである。そこで、まず、上記の課題を克服し、細胞や粗酵素抽出液などの混合系を用いた場合でも微弱な活性を簡便に判定することが可能なイノシンーグアノシンキナーゼ活性のスクリーニング方法の構築を行った。次に、この方法を用いて、実際にイノシンキナーゼ活性のスクリーニングを行った。スクリーニングの対象とした菌株は、核酸系化合物の発酵工業生産に用いられている属、すなわち、Bacillus属細菌、Brevibacterium属細菌、及びCorynebacterium属細菌である。検討の結果、対象菌株70株のうち、2株、Brevibacterium acetylicum ATCC953(最近、Exiguobacterium属に再分類された)、Corynebacterium flaccumfaciens ATCC 6887にイノシンを直接リン酸化する活性を見出した。さらに、活性を検出した菌株の類縁菌株についても活性の有無を検討した。その結果、イノシンを直接リン酸化する活性(イノシンキナーゼ活性)は、従来報告されていた通り、特定の菌株にのみ存在するものと推定された。//第四章では、第三章で得られたイノシンを直接リン酸化する活性の精製を行い、この活性がイノシンーグアノシンキナーゼ活性であることを証明した。また、得られた新規イノシンーグアノシンキナーゼがGDP、GTPなどのグアニンヌクレオチドで阻害を受けないことを明らかにした。従って、第二章で述べたE. coli由来イノシンーグアノシンキナーゼを用いたグアノシンのリン酸化における課題を克服し得る、すなわち、ATP再生反応と共役させたグアノシンのリン酸化が可能となる目的の酵素が得られたものと考えられた。更に、この新規イノシンーグアノシンキナーゼは、Mg2+と複合体を形成していないフリーのATPにより阻害を受けること、ピリミジンヌクレオチドによって活性化されること、アデノシン、シチジン、ウリジン、デオキシチミジンはリン酸基受容体とならないことなど、E. coli由来イノシンーグアノシンキナーゼと同様の性質を持つ一方、過剰のMg2+で阻害を受けること、グアニンヌクレオチドがリン酸基供与体となることなど、グアニンヌクレオチドで阻害を受けないこと以外にもE. coli由来イノシンーグアノシンキナーゼとは差異があることを明らかにした。//第五章では、得られたE. acetylicum由来イノシンーグアノシンキナーゼの遺伝子のクローニングを行った。これは、イノシンーグアノシンキナーゼを工業生産工程でのリン酸化反応に用いるためには活性を増強した菌体を用いることが望ましく、そのためには遺伝子工学技術を用いる方法が有効なためである。取得した遺伝子の配列から、本酵素は303アミノ酸残基よりなる分子量32,536のタンパク質と推定された。この推定分子量は、精製酵素のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動より算出された値、約36,000とよく一致した。アミノ酸配列についてのホモロジー検索の結果、E. acetylicum由来イノシンーグアノシンキナーゼは、リボキナーゼ、ケトヘキソキナーゼ、2−デヒドロ−3−デオキシグルコノキナーゼなどの糖キナーゼと相同性をもつことが判明し、本酵素自身、リボキナーゼファミリーに属するものと考えられた。E. coli由来イノシンーグアノシンキナーゼ等他のヌクレオシドキナーゼとは低い相同性または、部分的な相同性を示したのみであった。//E. acetylicum ATCC 953は、E. coliと同様、2種のプリンヌクレオシド利用経路の両方を併せ持つことが明らかとなったが、2種の経路はgrowth phaseによって使い分けられていることが示唆された。すなわち、イノシンーグアノシンキナーゼによる経路は、増殖期に、もう一方の経路は、定常期に利用されている可能性が考えられた。//第六章では、グアニンヌクレオチドによって阻害を受けないE. acetylicum由来イノシンーグアノシンキナーゼを用いたATP再生反応と共役させたヌクレオシドのリン酸化について検討を行い、これまで報告の無かったイノシンーグアノシンキナーゼを用いたATP再生反応との共役によるグアノシンのリン酸化に成功した。生産工程簡略化のため、ATP再生菌として用いるCorynebacterium ammoniagenesにおいてE. acetylicum由来イノシンーグアノシンキナーゼ遺伝子の発現を行うこととした。C. ammoniagenesにおける遺伝子発現に関する報告は数例しかないことから、C. glutamicumにて機能することが報告されているE. coli tacプロモーター、E. coli trpプロモーター、C. glutamicumにて高発現することが報告されているC. glutamicum 2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(odhA)プロモーターをそのリボソーム結合配列と共に用い、イノシンーグアノシンキナーゼ活性の発現量を検討した。その結果、E. coli trpプロモーターを用いた場合に最も高い活性が認められたことから、この株を用いてイノシン及びグアノシンのリン酸化について検討を行った。イノシンのリン酸化反応は速やかに進行し、30時間の反応で、186mmol/lイノシンより152mmol/lのイノシン酸が生成した(モル転換率82%)。これまで報告の無かったグアノシンのリン酸化についても、グアニル酸の生成を確認することが出来た(モル転換率16%)。//本研究は、核酸系調味料の新製造法開発を主眼とした研究であるが、別の観点からは、従来の化学反応プロセスの酵素反応プロセスへの置換研究ということができる。近年、環境問題の顕在化から、従来の化学反応プロセスの生物反応プロセスへの置換といった環境調和型プロセスや、生物反応を活用した環境修復が重要視されてきている。一方、有用微生物探索研究の進展、培養が困難な微生物からの遺伝子取得技術の開発、ゲノム配列解読研究の急速な進展による新規遺伝子の発見など有用遺伝子資源の充実と、酵素立体構造に基づく酵素改変技術、進化分子工学、代謝工学など酵素創製技術や育種技術の高度化が相俟って、目的に応じた生物プロセス構築の基盤が整備されつつある。今後、これらを駆使し、微生物や酵素の探索と改変によって有用微生物や有用酵素を創製することを通じて社会の要請に応え、貢献していきたい。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000230297
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000230794
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000004105721
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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