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養殖トラフグの粘液胞子虫性やせ病の病原生物学的研究

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著者

    • 柳田, 哲矢 ヤナギダ, テツヤ

書誌事項

タイトル

養殖トラフグの粘液胞子虫性やせ病の病原生物学的研究

著者名

柳田, 哲矢

著者別名

ヤナギダ, テツヤ

学位授与大学

東京大学

取得学位

博士 (農学)

学位授与番号

甲第21289号

学位授与年月日

2006-03-23

注記・抄録

博士論文

1996年以降、養殖トラフグの粘液胞子虫性やせ病が深刻な問題となっている。病魚は著しいやせ症状を呈し、死亡する。病魚の腸管には、粘液胞子虫Leptotheca fuguとMyxidium fugu,およびMyxidium sp.TPの寄生が見られるが、L.fuguとMyxidium sp.TPは腸管上皮組織に病理変化を引き起こし、本病の原因となっている。一方でM.fuguには病害性はないと考えられている。本病の重要性にも関わらず、病原体の分類学的検討は不十分であり、駆虫法や治療薬を開発する上で重要な病原体に関する生物学的知見も少ない。また、防疫体制の構築に不可欠な診断法も確立されていない。なぜなら、本病には病原体が複数存在し、それらが通常は胞子を形成しないことが研究の進展を妨げてきたからである。そこで本研究では、本病への対策を講ずるための基盤となる病原生物学的研究を行った。まず形態と遺伝子を用いて病原体の分類学上の位置を確定した。次に、PCRを用いた感度の高い検出・診断法を開発した。さらに、養殖場での病原体の伝播過程を解明するために、感染実験により水温の影響や感染力について検証した。最後に、新しく開発した診断法を用いて疫学調査を行い、発生状況の季節性や地域性に関する知見を得た。以上の結果をふまえ、養殖場で取りうる対策について考察した。形態観察と遺伝子解析による粘液胞子虫性やせ病原因寄生虫の分類粘液胞子虫の同定は主に胞子の形態によるが、Myxidium sp.TPは、トラフグ体内で胞子形成しないaために種レベルで同定されていない。またM.fuguの分類も再検討が必要と考えられた。そこで、形a態と遺伝子によって両種の分類を再検討した。また、近年発生した養殖マダイとイシガキダイの粘液a胞子虫性やせ病の病原体を同定した。Myxidium fuguとMyxidium sp.TPの分類の再検討;Myxidium sp.TPについては、マダイに人為的に感染させることにより、胞子を得ることに成功した。その胞子の形態はヨーロッパで報告されているEnteromyxum leeiと一致した。また、トラフグから得たM.fuguの胞子の形態は,Enteromyxum属の形態学的特徴をよく満たした。次に、寄生虫のsmall subunit ribosomal RNA(SSU rRNA)遺伝子の解析を行った。その結果、Myxidium sp.TPの塩基配列はE.leeiと99.6%の一致度を示し、形態観察の結果を支持した。また、M.fuguはEnteromyxum属粘液胞子虫と単系統のクラスターを組んだ。以上の結果から、Myxidium sp.TPをE.leeiと同種とし、M.fuguをEnteromyxum fuguとして分類を確定した。養殖マダイおよびイシガキダイの粘液胞子虫性やせ病原因寄生虫の同定鹿児島県の養殖マダイとイシガキダイ病魚から得られた胞子の形態は、E.leeiと一致した。また、寄生虫のSSU rRNA遺伝子の解析でも、その塩基配列はトラフグのE.leeiと100%一致した。以上の結果から、本病がE.leeiを原因とする粘液胞子虫性やせ病であることを明らかにし、E.leeiの宿主特異性が低いことを再確認した。すなわち、E.leeiの養殖場での感染環に天然魚も含めて様々な魚種が関与している可能性が示された。PCR法を用いた腸管寄生粘液胞子虫検出法の開発従来、本病は寄生虫の形態観察により診断されてきた。しかし、栄養体が多様な形態を持つうえに、しばしば3種が混合寄生するため、従来法での診断は容易ではなかった。そこで、PCRを利用した簡便かつ精度の高い診断法の開発を試みた。3種の粘液胞子虫のSSU rRNA遺伝子領域に、それぞれに特異的な3組のプライマーセットを作製し、PCR反応の条件検討を行った。その結果、各寄生虫に特異的かつ感度が高いPCR診断法を開発した。また、綿棒で肛門から採取した腸内容物を検査試料とすることで、検体を殺さずに検査する方法を開発した。これにより、従来よりも信頼性が高く簡便な診断法が開発され、本病の疫学調査を行うための技術的基盤が構築された。感染実験による腸管寄生粘液胞子虫の生物学的特性の検討寄生虫感染症の防除には、病原体の感染環と生物学的性質を理解することが重要である。そこでまず、E.leeiについて、発育に水温が与える影響、海水中での感染力維持時間、トラフグから他魚種への伝播の有無を検証した。さらに、これまでに人為感染の成功例がないL.fuguの感染実験を試みた。水温がEnteromyxum leeiの発育に及ぼす影響無感染トラフグに感染魚の腸管を経口投与し、水温15℃、20℃、25℃で33日飼育した。その結果、20℃では19日、25℃では12日目以降に感染が認められたが、15℃では寄生が確認されなかった。次に、20℃で感染させた後に飼育水温を10℃まで下げ、長期飼育実験を行った。その結果、試験開始後12週目に9尾中1個体でE.leeiが検出された。以上の結果より、E.leelのトラフグ腸管内での発育・増殖は低水温によって抑制されるものの、10℃でも生き残ることが証明され、養殖場で越年魚(1才魚)が翌年の種苗への感染源となっていることが示唆された。Enteromyxum leei栄養体の海水中での感染力感染魚の腸管内壁を擦り取り、滅菌海水に加えて20℃で0?48時間静置した懸濁液に無感染トラフグを浸漬した。その結果、E.leeiの感染力は、海水中で24時間は維持されることが明らかになり、養殖場で虫体が感染力を残したまま広範囲に拡散していることが示唆された。トラフグからマダイへのEnteromyxum leeiの感染実験マダイを感染トラフグと同居飼育および、感染トラフグの飼育排水中で飼育した。その結果、同居でも排水中での飼育でもマダイへの感染が成立した。この結果から、養殖場でトラフグとマダイという異なる魚種間で本病が伝播する可能性が示された。Leptothecafuguの感染実験感染魚の腸管を無感染トラフグに経口投与し、水温25℃で5週間飼育した。その結果、試験期間を通じて試験魚にL.fuguの感染は確認されず、人為感染は成立しなかった。この結果、L.fuguは魚から魚へ直接伝播せず、感染環を完結するためには交互宿主が必要であると推察された。腸管寄生粘液胞子虫の養殖場における寄生動態養殖場での本病の発生と感染拡大を制御するためには、現在の発生状況を把握する必要がある。しかし、これまでは診断法がなかったために全国的な分布調査は行われなかった。また、病原体の感染環を解明する上で、季節性や地域性を知ることは重要である。そこで、PCR診断法を用いて養殖場での疫学調査を行った。養殖場での季節変動熊本県、長崎県、大分県、福井県の養殖トラフグを、種苗導入時(6-7月)から出荷(翌年10-12月)まで毎月あるいは隔月20尾ずつ採材し、E.leeiとL.fuguの寄生率を調査した。その結果、E.leeiは熊本、長崎、大分では11月から翌2月に高い寄生率を示し、本病の発症個体が多く見られ始める時期と一致した。その後寄生率は低下し、熊本と大分では翌5-6月に0%になったが、7月以降に再び上昇した。福井では調査期間を通じて比較的低い寄生率(0-30%)で推移し、発症個体は見られなかった。このように、福井県におけるE.leeiの寄生状況は他県と異なった。これは低水温によってE.leeiの発育・増殖が抑制されているからと考えられた。L.fuguは、長崎と福井でのみ寄生が確認された。長崎では12月から翌2月にかけて高い寄生率(50-60%)を示した。一方、福井では種苗導入時(6月)にすでに感染しており、感染種苗が人為的に動かされていることが明らかになった。導入時の寄生率は10%であったが、10月に5%を示して以降は検出されず、漁場に定着しなかったようである。なお、長崎県での調査期間が短かったため、L.fuguの季節性については明らかに出来なかった。長崎県下での一斉調査2004年(9-11月)と2005年(12月)に長崎のトラフグ養殖場で一斉調査を行った。調査尾数は、2004年が1228尾(63地点)、2005年が496尾(50地点)であった。その結果、全体としてはE.leei、L.fuguともに感染域は調査年により異なった。2年連続で感染していた漁場や、逆に2年とも感染が見られなかった漁場が存在した一方、2004年に陽性で翌年に陰性になった漁場があり、一度漁場が汚染されても必ずしも定着しない可能性が示された。3箇所の養殖生け簀の近傍で採集したトラフグ以外の天然魚60尾(4目15種)からはE.leeiもL.fuguも検出されなかったが、調査地点および個体数が少なく、天然魚が本病の伝播に関与していないと断定するには不十分であると考えられた。考察現在のトラフグ養殖で用いられる種苗は全て人工生産されたものであり、活魚輸送技術の発達により、時に数百km離れた漁場に導入される。しかし、導入前の魚病診断は必ずしも行われておらず、特に本病にはこれまで信頼性の高い診断法がなかったため、感染魚の移動を防ぐ手だてがなかった。現に、本研究では感染種苗が養殖場に導入された例が見つかった。本病の原因となるE.leeiは魚から魚へ直接伝播するため、こうして全国に広がったと推察される。それでは、有効な薬剤や駆虫法がない現状で本病に取りうる対策はどのようなものがあるだろうか?まずは、当然のことながらこれ以上本病を拡散させないことである。野外調査の結果、本病に無感染の漁場が存在したが、このような水域を守るためには、無感染の種苗を供給することが最も重要である。次に、中間魚も含み、魚を移動する際には寄生虫検査を徹底するべきである。本研究のPCR法は、従来法よりも簡便で精度・感度が高く、また、魚を殺さずに検査することも出来る。本法を活用することにより生産者と魚病検査機関が一体となった防疫体制を構築していくことが、これ以上の人為的拡散を防ぐには必要である。感染実験からは、E.leeiはトラフグだけを介しても漁場に定着しうると考えられた。L.fuguについては交互宿主の感染環への関与が示唆され、一度感染環が成立すればそこに定着すると思われる。現に両種とも、2年連続で陽性の漁場が存在し、定着している可能性が示された。しかし一方、2004年に陽性で翌年に陰性となった漁場もあった。本病が定着しないような漁場環境があるならば、無感染種苗の導入を徹底することで感染環を断ち切ることが可能かもしれない。今後は、天然魚や他の養殖魚および交互宿主の関与も含めて、各漁場環境について個別的かつ詳細な検討を行うことが必要である。本病への防疫対策を完成させるには、伝播に関わる全ての要因を把握することが必須である。本研究では、病原体の伝播について新たな知見を得たが、その全容は明らかに出来なかった。今後も本病の感染環を解明するべく調査研究を進めていくことが必要である。

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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000358378
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000000359511
  • 本文言語コード
    • jpn
  • NDL書誌ID
    • 000008481009
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDL-OPAC
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