破骨細胞分化におけるTGF-βの影響と転写因子Mitf-Eの作用機序に関する分子生物学的研究 Studies on molecular mechanism of RANKL-induced Mitf-E expression and osteoclastogenesis by TGF-β.

著者

    • 浅井, 久美子

書誌事項

タイトル

破骨細胞分化におけるTGF-βの影響と転写因子Mitf-Eの作用機序に関する分子生物学的研究

タイトル別名

Studies on molecular mechanism of RANKL-induced Mitf-E expression and osteoclastogenesis by TGF-β.

著者名

浅井, 久美子

学位授与大学

麻布大学

取得学位

博士(獣医学)

学位授与番号

甲第136号

学位授与年月日

2014-03-15

注記・抄録

骨の恒常性は、骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収のリモデリングにより維持されている。このバランスが崩れることにより、破骨細胞の骨吸収過大による骨粗鬆症などの骨疾患がみられ、骨の代謝の維持のために破骨細胞分化の基礎的知見を得ることは重要である。破骨細胞は、単球マクロファージ系の前駆細胞の融合により形成されるTRAP(Tartrate-resistant acid phosphatase:酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)陽性多核巨細胞である。破骨細胞の分化には、骨芽細胞などの間葉系間質細胞が産生する因子が大きく関与している。特にM-CSF(Macrophage colony-stimulating factor)とRANKL(Receptor activator of nuclear factor-κB ligand)により、主体的に破骨細胞形成が誘導される。M-CSFは破骨細胞前駆細胞の生存と増殖に関与しており、続いてRANKLが破骨細胞前駆細胞を破骨細胞へと分化させる。これらの分子に加え、本研究室で着目しているTGF-β(Transforming growth factor-beta)をはじめとする様々なサイトカインが破骨細胞形成に働いている。破骨細胞分化には多くの転写因子が作用していることが報告されているが、本研究では、その中でもTGF-βの細胞内シグナル伝達因子との関連性も示されているMitf(Microphthalmia-associated transcription factor:小眼球症関連転写因子)に着目した。Mitfは破骨細胞、肥満細胞、心筋細胞やメラノーマ細胞等に組織特異的に発現している転写因子で、マウスでは転写開始点が異なる9つのアイソフォームA、B、C、D、E、H、J、M、およびmcが知られており、細胞によって発現しているアイソフォームは異なっている。 本研究では、はじめにマウスマクロファージ系株化細胞RAW264.7細胞およびマウス骨髄由来初代培養細胞を用いて、破骨細胞分化におけるMitf-Eの役割を、2本鎖RNA干渉法(dsRNAi法)を用いたMitf mRNAの発現ノックダウン実験や、Mitf-E発現ベクターをRAW264.7細胞に導入したMitf-E強制発現株の作製により解析し、破骨細胞分化におけるMitf-Eの重要性を示した(第1章)。次に、RAW264.7細胞でのTGF-β刺激によるRANKL誘導性破骨細胞分化促進において、Mitf-Eの発現が大きく上昇すること、形態的には破骨細胞の面積が増大していることをみつけ、破骨細胞分化関連遺伝子のうち特に細胞融合に関わる遺伝子の発現を調べた(第2章)。TGF-β刺激におけるMitf-Eの発現促進機序を細胞内シグナル伝達経路から解析した(第3章)。イヌにおける破骨細胞分化の基礎的知見はほとんどなく、イヌの骨髄由来初代培養細胞による破骨細胞分化系を確立し、イヌの破骨細胞分化系におけるTGF-βとMitf-Eの重要性と役割を検討した(第4章)。第1章 マウスRAW264.7細胞と骨髄由来初代培養細胞のRANKL誘導性破骨細胞分化におけるMitf-Eの影響 破骨細胞分化におけるMitf-Eの発現様態を、RAW264.7細胞をRANKLにより、またマウス骨髄由来初代培養細胞をM-CSFとRANKLにより破骨細胞に誘導する系を用いて調べた。Mitf-EはRANKL添加後、破骨細胞に特異的に発現することが確認され、Mitf-EはRANKL添加後1~2日目で発現が上昇し、その後減少することから、破骨細胞分化の初期段階に働いていることが示された。次に、dsRNAi法によるMitf-E発現ノックダウン実験を行った結果、破骨細胞の形成数、分化マーカー遺伝子であるTRAP、CtsK(カテプシンK)の発現量が減少し、破骨細胞分化が抑制された。一方、RAW264.7細胞で恒常的にMitf-Eを発現する安定株を作製したが、RANKL添加なしの培養では破骨細胞への分化は確認できなかった。またMitf-E安定発現株4株についてRANKL刺激を行なったところ、株により破骨細胞分化の程度にばらつきがみられ、Mitf-Eの発現量との相関性はみられなかった。これらのことから、Mitf-Eの発現のみでは破骨細胞へは分化せず、他の因子との協調が必要であることが示唆された。本章では、破骨細胞分化において作用するMitfアイソフォームの中でもMitf-Eが重要であり、Mitf-Eは破骨細胞分化に必要ではあるが、単独で破骨細胞分化誘導をする十分な因子ではないことを示した。第2章 TGF-β刺激下での破骨細胞分化におけるMitf-Eと分化関連遺伝子の発現とその影響 TGF-βは、骨髄など様々な細胞に存在し、細胞の増殖や分化に関与しているサイトカインである。TGF-βをRAW264.7細胞のRANKL誘導性破骨細胞分化系に添加すると、破骨細胞分化が促進されることが知られている。TGF-β添加ではRANKL刺激のみの対照群に比べて破骨細胞の形成数と面積、骨吸収の面積が増大し、破骨細胞分化マーカー遺伝子(NFATc1:Nuclear factor of activated T cells 1、TRAP、CtsK)の発現量も増加し、TGF-βにより破骨細胞分化が促進されることを確認した。さらにこの時のMitf-Eの発現を調べたところ、TGF-β添加により増加していることが明らかとなった。また、TGF-βが破骨細胞の面積を増大させていることに着目して、細胞融合に関わる遺伝子であるDC-STAMP(Dendritic cell-specific transmembrane protein)、各種インテグリン―Itgav、Itga2、Itga5、Itgb1、Itgb3、Itgb5―の発現を調べた。いずれの遺伝子発現もTGF-βで促進した。特にTGF-β刺激時のItgavとItgb5の発現増加パターンはMitf-Eの増加パターンと一致しており、TGF-βによる破骨細胞分化促進時に、Mitf-EがItgav、Itgb5の発現に関与している可能性が示された。第3章 TGF-β刺激時の破骨細胞分化におけるMitf-Eの発現機序の解明 TGF-βは、細胞膜上に存在するセリン/スレオニンキナーゼ型受容体であるII型受容体とI型受容体(ALK5)を介しシグナルを細胞内に伝達する。TGF-βがII型受容体に結合すると、ALK5がリン酸化され活性し転写因子であるSmad2/3を活性化することにより標的遺伝子を転写するSmad経路と、Smadを介さずp38MAPKやJNKに作用し標的遺伝子を転写する非Smad経路がある。破骨細胞分化でTGF-βが作用する経路には、Smad経路単独と非Smad経路単独、及びSmad経路と非Smad経路の両方が働く報告があるが、破骨細胞分化においてTGF-βが標的遺伝子であるMitf-Eを転写する経路は不明である。そこで、TGF-βによる破骨細胞分化促進時のMitf-E発現促進の分子機序をレポーターアッセイ法により解析した。Mitf-E のプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子(Luc)の上流に組み込んだプラスミドベクター(Mitf-E-Luc)を作製し、それらをTGF-βに応答するHepG2細胞に導入して、各因子に対するルシフェラーゼの発光量を測定した。Smad経路を活性化するALK5の活性化型をMitf-E-Lucと共発現させたが、Mitf-E-Lucは応答しなかった。次に、非Smad経路のJNKにより活性化するc-Fos、c-JunをMitf-E-Lucとそれぞれ共発現させたところ、c-Junの発現によってMitf-E-Lucが応答し、またc-Junのドミナントネガティブ体であるTAM67の発現ベクターを同様に共発現させてもMitf-E-Lucは応答しなかったことから、c-Junによる転写を介してMitf-Eを発現促進することが示された。このことより、TGF-βによる破骨細胞分化促進において、TGF-βはSmad経路ではなく非Smad経路であるJNKを活性化し、JNKによって活性化されたc-JunによってMitf-Eの発現を正に制御している可能性が考えられた。第4章 イヌ骨髄由来初代培養細胞を用いた破骨細胞分化系の確立と、Mitf-Eの発現とTGF-βの影響 動物種により分化に異なる因子が働いている場合はよくある。イヌはよく実験動物として使用されており、また獣医学臨床分野においても骨腫瘍など破骨細胞の関係する骨疾患も多く見られている。しかし、イヌにおける破骨細胞分化の基礎的所見はほとんどない。そこで、まずイヌの骨随由来初代培養細胞による破骨細胞分化系の確立を試みた。イヌの大腿骨より採取した骨髄細胞から分離した単球層を、M-CSFとRANKLのそれぞれの濃度の組み合わせを検討し、適切な濃度の存在下で培養することにより、破骨細胞を確実に形成する系を確立した。形成された細胞はTRAP陽性多核巨細胞で機能的にも骨吸収能を有し、mRNAレベルでもTRAP、NFATc1、CtsK、Itgb3の破骨細胞分化関連遺伝子も分化に伴い有意に増加しており、破骨細胞であることが確認できた。次に、Mitf isoformのmRNAレベルを調べたところ、Mitf-Eの発現はマウス同様に破骨細胞分化初期に大きく増加していた。また、全体のmRNAもやや増加傾向が見られたが、マウスRAW264.7細胞では破骨細胞形成時に増加していたMitf-Aは、イヌでは大きく減少していた。次に、TGF-βがイヌ破骨細胞分化に与える影響を調べたところ、マウスの結果(第2章)と異なり、破骨細胞分化を抑制した。破骨細胞数が大幅に減少しており、NFATc1、CtsK、TRAP、Itgb3のmRNAの発現も低下し、形態的にも遺伝子レベルでも破骨細胞分化が抑制していた。さらにこの時、Mitf-Eの発現は破骨細胞分化時より有意に低下しており、Mitf-Aは破骨細胞分化形成時の発現レベルよりも上昇していた。以上のことから、イヌ骨髄由来初代培養細胞においてもMitf-Eが破骨細胞分化に正の相関があることが示唆されたが、マウスRAW264.7細胞とは異なりTGF-βは破骨細胞形成を抑制するシグナルに作用したことが考えられた。 以上より、本研究でマウスにおける破骨細胞分化において、Mitf isoformのうちMitf-Eが必要条件であり重要な役割を担っていることが示され、TGF-βが破骨細胞分化を促進する過程でMitf-Eの発現を促進し、さらに細胞融合関連遺伝子の発現を促進することが示唆された。TGF-βによるMitf-E発現促進の機序には、非Smad経路のJNK経路に含まれるc-Junが関与していることを示した。イヌ骨髄由来初代培養細胞を用いた破骨細胞分化系を確立し、イヌにおけるMitf-Eもマウスと同様に破骨細胞分化における重要な転写因子である可能性を示した。しかし、TGF-βの破骨細胞分化に与える影響は、マウスでは促進、イヌでは抑制となり、種間で異なることを明らかにした。本研究により、破骨細胞分化におけるMitf-Eの重要性とTGF-βの動物種間での影響の違いについて明らかとした。この結果は、骨疾患の治療への基礎的知見となり得ると考えられる。

Coupling of bone formation with bone resorption is essential in keeping bone homeostasis. Osteoclasts are principal cells that resorb bone. They are tartrate-resistant acid phosphatase (Trap)-positive multinucleated cells formed by the fusion of precursor cells of monocyte-macrophage lineage. Osteoclast differentiation and activation are mediated by many factors, especially, macrophage colony-stimulating factor (M-CSF) and receptor activator of nuclear factor-κB ligand (RANKL). Microphthalmia-associated transcription factor (Mitf) is a basic helix-loop-helix leucine zipper (b-HLH-Zip) transcription factor that is expressed in limited types of cells, including osteoclasts, adipocyte, melanocyte and myobrasts, but the expression of Mitf during osteoclastogenesis has not been fully elucidated. Mitf dominant-negative mutants exhibit osteopetrosis. The Mitf gene locus contains 9 isoform-specific promoters, – Mitf-A, -B, -C, -D, -E, -H, -J, -M, -mc –. Each Mitf isoform transcript contains an isoform-specific first exon that is spliced to exon 1B1b and common exons 2-9. This study describes the role of Mitf-E in osteoclastogenesis by TGF-β.Chapter 1 The expression of the Mitf-E isoform but not that of the Mitf-A isoform was induced in response to differentiation stimulation toward osteoclasts by RANKL in both RAW264.7 cells and primary bone marrow cells. The RANKL-induced formation of Trap-positive multinucleated cells was inhibited in RAW264.7 cells expressing siRNA for Mitf-E. These results suggest that transient induction of Mitf-E by RANKL is essential for efficient osteoclastgenesis. Chapter 2 Next, the effects of TGF-β on osteoclastogenesis were examined. TGF-β enhanced RANKL-induced MITF-E expression and TRAP-positive multinucleated cell formation. In particular, TGF-β potentiated the formation of larger osteoclasts. The expression levels of NFATc1, TRAP and CtsK, genes related to osteoclast development and activity, were concurrently enhanced by TGF-β in the presence of RANKL. Furthermore, the expression of DC-STAMP, Itgav, Itga2, Itga5, Itgb1, Itgb3, and Itgb5, genes related to cell adhesion and fusion, was up-regulated by co-treatment with TGF-β. In particular, the regulatory expression of Itgav and Itgb5 in response to RANKL with or without TGF-β resembled that of MITF-E. Because MITF is involved in cell fusion in some cell systems, these results imply a role for Mitf-E as an enhancer of osteoclastogenesis and that RANKL-induced levels of both Mitf-E mRNA and of MITF-dependent gene expression are enhanced by treatment with TGF-β.Chapter 3 To clarify the molecular mechanisms underlying the regulation of Mitf-E expression by TGF-β, luciferase-based reporter assays with Mitf-E promoter regions were carried out. The expression of constitutively active ALK5 did not activate the Mitf-E transcription. In contrast, the expression of c-Jun enhanced the Mitf-E transcription activity. TAM67 expression construct, which is a c-Jun dominant negative mutant, did not activate Mitf-E transcription. Moreover, TGF-β induced the phosphorylation of JNK. Thus, the enhancement of Mitf-E transcription by TGF-β may result from activation of the JNK signaling pathway rather than Smad signaling. Chapter 4 RANKL-induced osteoclastogenesis by using dog primary bone marrow cells is decribed. RANKL induced Mitf-E mRNA expression as shown in the above Chapter 1 using murine cells, suggesting the importance of Mitf-E on osteoclastgenesis also in dogs. However, unlike the case of mouse RAW264.7 cells, TGF-β inhibited RANKL-induced Mitf-E expression and –TRAP positive multinucleated cell formation. The role of TGF-β during osteoclastogenesis in dogs needs to be investigated in future studies.

目次

  1. 2015-04-01 再収集 (2コマ目)
  2. 2023-03-01 再収集 (3コマ目)
  3. 2023-03-01 再収集 (4コマ目)
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各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    500000916706
  • NII著者ID(NRID)
    • 8000001579078
  • 本文言語コード
    • jpn
  • データ提供元
    • 機関リポジトリ
    • NDLデジタルコレクション
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