最近の有機溶剤依存の臨床的特徴 ―有機溶剤乱用の現状と問題点―

  • 福井 進
    国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部
  • 和田 清
    国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部
  • 伊豫 雅臣
    国立精神・神経センター精神保健研究所薬物依存研究部

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抄録

有機溶剤乱用は20年以上にわたり多くの青少年に乱用されており,覚せい剤ととも 現在わが国がかかえている深刻な薬物乱用問題である。 精神科医療施設に受診している138例の有機溶剤依存者について,生活歴,乱用時の急性 症状,来院時症状,最終診断時症状そして使用年数との関係について検討し,最近の有機 溶剤依存の特徴について考えた。 社会で一般に乱用している有機溶剤乱用者は未成年者が殆どであり,使用年数も1年未 満が多く,集団で吸引しているanomictypeであるのに対し,医療施設を受診する有機溶剤 乱用者は過半数が20オ以上の成人であり, 1年未満の使用者は少なく, 5年以上の使用者 が過半数をこえて,長期使用者が多く(特に最近は乱用の長期化が目だっ),単独で吸引す る依存型のasocialtypeであることが特徴であった。 有機溶剤乱用による慢性中毒症状は判断力低下,集中力低下,無気力,無為,物忘れ, 茫乎感などの動因喪失症候群amotivationalsyndromeを中心とした人格変化と抑うつ感, 不安感,焦燥感,易刺激・易怒などの気分・情動障害と幻覚,妄想の知覚・思考障害があ げられた。気分・情動障害と人格変化ば慢性中毒の初期より発現しやすい症状と従来より いわれていたが,従来の報告よりその発現率は高い。人格変化は使用年数が3年をこえる と一層発現率は高まるが,気分・情動障害は使用年数とともに発現率は低下する傾向がみ られ,それは人格変化が影轡していると考える。慢性中毒症状としての幻覚・妄想は従来 はないか,あっても少ないとされていたが,使用期間が3年をこえると有意の差をもって 発現しやすくなり,云われている以上にその発現率は高い。これらのことは乱用の長期化 と密接な関係があることが示唆された。 人格変化は治療により改善されにくく,有機溶剤の乱用が発達過程にある未成年により 行われるだけに,乱用による心身におよぼす影響は覚せい剤以上に大きいものがあると考 える。

収録刊行物

  • 精神保健研究

    精神保健研究 (2(通巻35)), 107-131, 1989-08-15

    国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター

被引用文献 (8)*注記

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