消化管のペースメーカー機構

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  • Gastrointestinal pacemaker system

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抄録

この総説は,消化管ペースメーカー機構の研究の流れを紹介するとともに,その生理的な役割と障害による病態を,臨床的な視点から論じたものである.<BR> 消化管ペースメーカー機構は長い間,単に,消化管平滑筋の周期的な電気活動,すなわちスローウェイプとして知られている静止膜電位の振動を発生する仕組みと考えられてきた.数年前,カハールの介在細胞(interstitial cells of Cajal,ICC)がスローウェイプを発生していることがわかり,これが消失すると,神経や平滑筋,ホルモンの機能が保たれていても,正常な蠕動運動がおこらなくなることが示された.さらに,ICCの中には神経伝達物質のレセプターを持ち,神経―筋伝達を仲介しているものがあることが解明され,ペースメーカー機構はスローウェイプを発生するだけでなく,これを利用して効果的に刺激伝達を行うシステムである,という新しい概念が生まれた.<BR> ペースメーカーの障害そのものが病因となる疾患には,特発性偽性腸閉塞症がある.また糖尿病性胃腸症には,続発性のICCの障害が深く関与している.さらに日常診療で経験する多くの胃腸運動疾患にも,ペースメーカー機構の障害が関与していることが明らかになりつつある.<BR> ICCには,神経伝達物質のレセプターだけでなく,コレシストキニンなどのホルモンのレセプターを持つものがあるらしい.つまり,ペースメーカー機構は,神経やホルモンの作用をとりまとめて平滑筋に伝える,総合的な機能ユニットである可能性がある.消化管のペースメーカー機構は,今後,消化管運動障害に対する重要な診療ターゲットとなると考えられ,また胃腸運動疾患を「消化管の不整脈」と捉え直した,新しい診療戦略が生まれることが期待される.

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