1新置換名を含むMythimna(Sablia)griseofasciata(Moore)とその近縁種の分類学的再検討(鱗翅目,ヤガ科,ヨトウガ亜科)

  • 吉松 慎一
    Insect Systematics Laboratory, Natural Resources Inventory Center, National Institute for Agro-Environmental Sciences

書誌事項

タイトル別名
  • A synopsis of Mythimna (Sablia) griseofasciata (Moore) (Lepidoptera, Noctuidae, Hadeninae) and a close relative with a new replacement name
  • synopsis of Mythimna Sablia griseofasciata Moore Lepidoptera Noctuidae Hadeninae and a close relative with a new replacement name

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抄録

ヤガ科ヨトウガ亜科のキヨトウ類は成虫の斑紋が単純で種数も多く,また過去の属の扱いも不統一であったこと等から,種レベルでの処置にシノニムやホモニムが複雑に絡んでいることも度々見受けられる.今回もそのよい例であるが,さらに雌雄の誤同定までも起こったケースである.Hreblay&Ronkay(1998)はLeucania irrorata Moore,1888をMythimna(Sablia)griseofasciata(Moore,1881)の新参シノニムと扱ったが,これは間違いで前者は確かな種である.彼らはレクトタイプとして前者についてはインド産♂をそして後者についてはインド産♀を指定したが,両種の雌雄の組み合わせを間違ってしまった.そこで両種の雌雄交尾器の一部を計測し,両種の雌雄の対応を明瞭にし,また識別点をはっきりさせた.雄交尾器のphallusのzoneより後半部(=suprazonal sheath)は体外に露出され,交尾の際には部分的に♀の体内に挿入される(白水,1960).故に,雄交尾器のphallusのsuprazonal sheathの直径(Fig.1:DSS)と雌交尾器のantrumの最小幅(Fig.2:MWA)を腹方より測定し,両種の識別を試みた.もちろん,suprazonal sheathもantrumも十分硬化している.なお,雌雄交尾器ともプレパラート標本として押しつぶされたものではなく,乾燥標本を解剖後70%アルコールが入ったシャーレの中で立体的な構造を保った状態のものを計測した.前者のDSSは0.59-0.66mm(平均0.61mm;N=5),MWAは0.59-0.63mm(平均0.61mm;N=5)となりよく対応している.また,後者のDSSは0.46-0.49mm(平均0.47mm;N=5),MWAは0.40-0.48mm(平均0.42mm;N=5)とほぼ類似な数値である.これらの交尾器の計測値を見ると,前者の♂と後者の♀は交尾困難なように思われる(前者♂のsuprazonal sheathの直径に比べて後者♀のantrumは幅が小さすぎるため).このような長さの対応以外に,♂のvesicaと♀のductus bursaeは前者では両方とも長く,後者では両方とも短く,同種内で長さがよく対応していることもまた両種の雌雄の対応が正しいことを支持している.一方,前者(Leucania irrorata Moore,1888)はMythimna属の一員であり,そうするとコガタキヨトウMythimna irrorata(Moore,1881)(=Axylia irrorata Moore,1881)の2次新参ホモニムとなるので,ここで新置換名Mythimna(Sablia)decipiens Yoshimatsu,nom.nov.を与えた.M.griseofasciataとM.decipiensは,インドとネパールに同所的に分布しており,今回用いた材料に限っても同地点で同時に採集されている.上記の交尾器の雌雄における長さの対応以外に,両種の形態的差異は以下の通りである.1.M.griseofasciataの♂前翅長は13.4-14.9mm(平均14.1mm),♀では13.9-15.4mm(平均14.5mm).一方,M.decipiensの♂前翅長は15.0-17.2mm(平均16.3mm),♀では15.3-15.8mm(平均15.5mm)とより大きい.2.M.decipiensは前翅に黒色の斑点を備える(特に♂は多数備える)がM.griseofasciataにはほとんどない.3.雄交尾器のsacculus背方にM.griseofasciataでは波打った広く長い突起を備えるが,M.decipiensでは細長い梶棒状の突起を備える.また,juxtaやvesicaの形態にも差が見られる.4.雌交尾器については,M.griseofasciataではductus bursaeは幅が狭くまたductus seminalisがcervix bursaeの前方に付着するが,M.decipiensではductus bursaeは幅広でまたductus seminalisがcervix bursaeの左側方に付着する.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 55 (4), 307-314, 2004

    日本鱗翅学会

参考文献 (9)*注記

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