臨床脳波の精神医学への寄与

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  • Clinical electroencephalography : A fruitful way for solving psychiatry

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抄録

ドイツの精神科医であったHans Berger (1929) が頭皮上脳波を記録し, 脳波を臨床に導入してから既に半世紀を超えた. しかし脳波の判定基準は, 未だ十分確立されているとはいえず, 私たちの研究室での過去十年間にわたって調査し続けた2000例余にわたる青年期脳波の検討結果は, 脳波が成人脳波として安定した波形を示すのは成書にあるより遅い23-24歳という新知見を得ている. 脳波がてんかんや意識障害, またさまざまな器質的脳疾患ひいては内分泌疾患などの診断にも重要な役割を果たしていることは周知の事実である. 私たちの教室では, 伝統的に上述の疾患以外に異常脳波によって示されるあるいは付与される精神症状に就いての検討が続けられてきている. 強迫神経症・心気症・離人症・ヒステリーなどの神経症性障害などの検討からはてんかん境界性疾患の可能性が示唆されたが, これらの検討を続けていく過程で共通してみられる病態として, 攻撃性・情動不安定性・衝動性などが確認された. 異常脳波によって示されるこれらの特徴は, てんかんとは異なり病因論的なものというよりは症状形成論的なものとして評価し得るものと思われた. このような臨床特徴は境界性人格障害に見られるが, 一般的には内に向かう攻撃性としては自殺と外に向かう攻撃性としては犯罪と相関する. このことは自殺念慮をもつものには自殺予防としての薬物学的対応の必要性を示し, 犯罪者には社会精神医学的関与のみでは不十分な生物学的障害の基盤を示唆することとなり, 犯罪生物学的視点の必要性をあらためて認識する必要がある. 一方, 病的脳波と見做されやすい, ある種の異常脳波は病的脳波と言えないばかりか高度の注意・集中を要する職種の人たちに出現する傾向のあることを明らかにしつつある. 以上, 主として教室の精神生理班の業績について述べる.

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