The progress of medical mycology in Japan: the outline

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  • 我が国における医真菌学の歩み:概説

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わが国の医真菌学の発展に中心的役割を担ってきた日本医真菌学会は、本年創立50周年を迎えた。本学会の半世紀の歴史の重みとともに、医真菌学の重要性がますます大きくなっている現状に新たな感慨を覚える。それと同時に、本学会創立の遙か以前からわが国における医真菌学が辿ってきた道程にも思いをはせざるを得ないのである。 丁度40年前、本学会創立10周年にあたって故高橋吉定名誉会員は「わが国医真菌学の回顧」と題する記念講演を行った。そのなかで高橋博士は、第1期(明治20年頃?大正期末)、第2期(昭和期初頭?昭和20年)、第3期(昭和21年以降)、の3つの発展段階に分け、それぞれの時期の特色としてヨーロッパの医真菌学の影響が強いこと、太田正雄によるわが国独自の医真菌学の確立、および米国の医真菌学の影響が強くなったこと、をあげている。この第1期と第2期は、真菌症といえばほとんどすべてが表在性真菌症とくに皮膚糸状菌症であり、したがって研究の対象となる真菌も皮膚糸状菌にほぼ限られ、もっぱら光学顕微鏡的形態学に基づく分類学が主流となっていた。それを代表する研究者が太田正雄であり、彼の優れた研究者、教育者としての活躍によってわが国の医真菌学の基礎が築かれることとなった。 高橋博士がいう第3期は、日本の医真菌学にとっても大きな変革の時期であった。それをもたらした最大の原因は、昭和30年代に顕在化した全身性、侵襲性のカンジダ症やアスペルギルス症をはじめとする深在性真菌症の発生率の急激な上昇である。それまでほとんど皮膚科領域でのみ扱われていた真菌症が、今や大半の臨床医学領域が直面するより深刻な問題と化し、昭和30年の文部省科学研究費総合研究「カンジダ症」班の発足に続いて、翌年本学会の設立をみるに至った。 さらに昭和期後半には、生物学のあらゆる分野において研究もその方法論も急速に進歩した。生物学の様々な知識と合わせて、微細形態学(電子顕微鏡法)、生理・生化学、血清・免疫学などの新しい手法の導入によって、医真菌学の基礎研究および臨床研究は飛躍的に発展したのである。加えて、有用な抗真菌薬の相つぐ開発と実用化は、この発展をさらに加速させることとなった。これらの状況を背景に、皮膚真菌症から深在性真菌症へと診療・研究の対象が拡大するとともに、従来主流とされた分類学をはじめとする真菌生物学(菌学)中心の研究から、新しい診断法、治療法の開発を目標とする臨床応用的研究へと流れが変わった。 続く平成の時代に入って、医真菌学は第4期ともよぶべき新たな発展段階を迎えた。その原動力はいうまでも分子生物学(遺伝子操作、ゲノミクス、プロテオミクス)とコンピューター技術(インフォマティクス)の急激な勃興と進歩であり、医真菌学研究の分野にも大きなブレークスルーをもたらしつつある。

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