我が国における医真菌学の歩み:皮膚科領域

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  • The progress of medical mycology in Japan: dermatology

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抄録

五十年前、医真菌学会が始められた時代には我が国は戦後の混乱から未だ脱しきれず貧乏のさなかにあった。それでも医真菌学会が皮膚科関連学会中最も早く始まったのは戦争中の混乱期にもこの学問に興味を持つてきた人が我が国に少数ながらおられたからであろう。その後、この簡単そうで奥深い真菌感染症の学問は次第に同好の士を増やして着実な歩みを進めている。<BR>医真菌学といっても守備範囲が広いので主な項目に分けて五十年の歩みをたどり、将来の展望を描いてみたい。1.症例、2.分類・同定、3.菌体構造・機能、4.環境内分布・真菌相、5.動物真菌症・動物モデル、6.治療、7.Malassezia関連疾患から見た生体防御と展望。<BR>真菌感染症は弱毒菌感染症であって、微妙な生体防御機構の研究に適しているので特に上記のうち7.生体防御に重点を置いて今後のこの学問の発展を展望したい。<BR>自然免疫について<BR>現在の免疫学では生体防御の主役はリンパ球とされている。しかしリンパ球は脊椎動物における究極の生体防御のために発達した細胞であって無脊椎動物である昆虫などには存在しない。まして植物は如何にして侵入する微生物と戦うのであろうか。われわれは以前皮膚抽出物に強力な殺Candida作用があることを学会誌に報告した。表皮細胞は堅固な角質を生産して物理的に生体を保護するとともに、抗菌物質を生産して侵入する外敵微生物から生体を守る働きがある。表皮細胞は多数が集まって層状構造の組織を形成しているが、植物組織も、無脊椎動物の外皮組織や消化管などの内腔上皮組織も同じ多細胞壁の構造を形成している。このような部位に弱毒菌が侵入した場合、局所組織はよそからの浸潤細胞の助けを借りることなく侵入微生物を局所組織細胞の生産する抗菌物質だけで侵入菌の発育抑制や殺菌をし得ると考える。これが侵入微生物に対する宿主の生体防御の第一線であろう。浅在性白癬の症状はその表皮細胞による防御過程を示す身近なモデルである。微生物の侵入力が更に強ければ骨髄などの造血臓器からの浸潤細胞が出動してこの第一線の防御を助けるであろうし、更に強ければ脊椎動物においてのみリンパ球が活性化してサイトカインを出して局所細胞の抗菌物質の生産を飛躍的に増加させると考える。この場合白癬ではトリコフィチン反応が陽転して局所の炎症は突然激化すると同時に年余にわたって不治だった白癬は間もなく自然治癒する。真菌学的諸経験に基いて以上の生体防御機構を提唱したい。

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