環境問題論争における「科学的データ」と研究者の役割
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- 平井 幸弘
- 専修大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Scientific data in the argument about environmnetal issues and the role of scientists
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抄録
1. 干潟の保全・再生と大規模干拓事業 近年、身近な動植物の絶滅や生物多様性の喪失などの危機感を背景に、干潟の保全・再生に向けて新たな動きが見られる。例えば、名古屋港奥の藤前干潟では、84年の名古屋市によるゴミ埋め立て計画に対し「藤前干潟を守る会」等による幅広い運動の結果、99年1月に計画は撤回され02年には国内13番目のラムサール条約登録湿地となった。また、93年に埋め立て計画が出された東京湾奥の三番瀬でも、市民による反対運動と堂本知事の誕生によって01年11月に計画中止となり、04年1月には住民主導で作成された「三番瀬再生計画」がまとめられた。しかし一方で、諫早湾と韓国西南海岸セマングム地区では、それぞれ国内最大規模の干潟を対象とした大規模な干拓事業が、今まさに進んでいる。2. 諫早湾干拓問題における「科学的データ」 諫早湾干拓事業では、00年度のノリ大不作を契機として、「ノリ第三者委員会」が設けられ、潮受け堤防の中・長期開門調査が提言された。しかし国は委員会解散直後に立ち上げた「検討委員会」の否定的な見解を受け、04年4月に調査は実施しないと表明した。その理由は、コンピュータシュミレーションによる検討の結果、開門によって調整池内のガタ土が流出し漁業被害が発生するとし、またノリ不作の要因は、地球温暖化による影響や河川からの供給土砂の減少など複合的であるとした。しかし、漁業被害を予測したシミュレーションについて、その仮定や手続き、信頼性などについては触れず、要因が複合的という説明も具体的な根拠は示されていない。一方「有明海漁民・市民ネットワーク」と日本自然保護協会は、有明海全域77個所の表層水・底層水の溶存酸素の簡易測定を行い、諫早湾の底層の酸素濃度が低いこと、底層の貧酸素化と赤潮の発生が密接に関連していることなどを明らかにし、第三者委員会もこの貧酸素水塊に注目した。3. セマングム干拓事業における「科学的データ」 セマングム干拓事業は91年に着工されたが、社会的に注目されたのは、先に進んでいた始華干拓事業で、内部調整池の深刻な水質汚染が96年夏にマスコミ報道されたことが契機となった。その後の論争過程では、内部水面の水質予測や失われる干潟の評価について、海洋水産部・海洋研究院や環境部・国立環境院などが独自の調査を行い、事業主体の農林部に対し、独立した立場から科学的データを提出し節目で農林部とは異なる意見を表明していることが注目される。諫早の場合、農林水産省に対する国土交通省や環境省による独自の調査や見解は聞かれない。4. 「科学的データ」と研究者、市民・住民 日韓の大規模干拓事業をめぐる議論において、その評価に関する「科学的データ」と研究者および市民・住民の関わりについて、以下の点を考えたい。(1)「科学的データ」は専門家や公的機関が収集・分析したものが絶対優位ではなく、むしろ現場で生業を営む住民が、適切な手続きに従って得られたものも重要な「科学的データ」となる。研究者はそのような地域に根ざしたデータを作り活用すべきである。(2)「科学的データ」は、空間的、時間的に限定される傾向があるが、対象事項の深く多面的な理解のためには、例えば諫早湾干拓では、有明海にとどまらず韓国や中国を含めた東シナ海の干潟と言うより広い視点、また時間的にも近世の干拓以前から海面上昇の影響も考慮すると、今後100年後くらいまでの視野で問題を捉える必要がある。(3)「科学的データ」として議論されるのは、一般に自然科学分野のデータに依存しがちであるが、研究者は個々の専門領域を越えて、広く社会科学的視点からの議論も含めて、総合的また大局的に評価することが必要である。(4)「科学的データ」の公開では、第三者が追試可能な生のデータも含むべきで、特定の立場からの解釈、分析、整理された資料ではない。その意味で真の情報公開を求め、得られた生データを公平にわかりやすく市民に伝えるのは、研究者の役目である。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2004f (0), 8-8, 2004
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205694186496
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- NII論文ID
- 10020533504
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- NII書誌ID
- AA1115859X
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
- KAKEN
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可