内耳疾患の治療をめざして―基礎研究の最前線―加齢による内耳変性老人性難聴の予防に向けて―

  • 山岨 達也
    東京大学大学院医学系研究科外科学専攻感覚運動機能講座耳鼻咽喉科学分野

書誌事項

タイトル別名
  • Molecular Mechanism of Age-related Hearing Loss: Toward its Prevention
  • 第109回日本耳鼻咽喉科学会総会シンポジウム 内耳疾患の治療をめざして--基礎研究の最前線--加齢による内耳変性 老人性難聴の予防に向けて
  • ダイ109カイ ニホン ジビ インコウ カガクカイ ソウカイ シンポジウム ナイジ シッカン ノ チリョウ オ メザシテ キソ ケンキュウ ノ サイゼンセン カレイ ニ ヨル ナイジ ヘンセイ ロウジンセイ ナンチョウ ノ ヨボウ ニ ムケテ
  • —加齢による内耳変性 老人性難聴の予防に向けて—

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抄録

加齢に伴うミトコンドリアDNA変異蓄積・ミトコンドリア機能低下が老人性難聴の発症に関与する可能性について研究を行った. まず老人性難聴モデルであるDBA/2Jマウスの蝸牛における遺伝子発現変化を検討した. このマウスは2カ月齢では軽度難聴, 8カ月齢で聾となるが, 8カ月齢の蝸牛を2カ月齢のそれと比較すると, 約2,200の遺伝子の発現が低下し, 約1,900の遺伝子の発現が亢進していた. 特にミトコンドリア機能に関する15のカテゴリーでの遺伝子発現低下が顕著であり, 加齢に伴う難聴発現におけるミトコンドリア機能低下の関与が示唆された. 次にミトコンドリアDNA変異が加齢に伴い増加するPOLGマウスを作成したところ, 早期から様々な老化症状を呈した. 野生型では9カ月時には聴力は正常であったが, POLGマウスでは中等度難聴が生じ, 蝸牛に著明な変性とアポトーシスの増加が見られた. 9カ月齢のPOLGマウスの蝸牛では野生型に比べて, 聴覚, エネルギー代謝などに関与する遺伝子の発現が低下し, アポトーシスなどに関与する遺伝子の発現が増加していた. 最後にC57BL/6マウスに26%のカロリー摂取制限を行い, 加齢に伴う難聴が予防できるか検討した. 通常量の食事を与えた対照群では15カ月齢までに中等度難聴および蝸牛組織の変性, アポトーシスが生じたが, 同月齢のカロリー制限群では聴力は正常に保たれ, 組織変性も少なく, アポトーシスも抑制されていた. 15カ月齢のカロリー制限群では同月齢の通常食群に比べ, 聴覚機能・ミトコンドリア機能などに関与する遺伝子発現が増加し, アポトーシスなどに関与する遺伝子発現が低下していた. 以上の一連の結果から, ミトコンドリアDNA変異の蓄積によりミトコンドリア機能が加齢とともに低下し, 蝸牛内の重要な細胞のアポトーシスが誘導されて老人性難聴の生じることが示唆された.

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