臨床実習成績不良者の情意面の傾向分析

抄録

【目的】<BR>理学療法士は専門技術職であり、養成教育においても知識・技能・情意の3領域をバランスよく教育システムに盛り込み、臨床能力の備わった社会人・医療人としても質の高い人材の育成をする必要がある。しかし近年、理学療法士養成校における学生の多様化が進むにつれ、学内教育や臨床実習(以下実習)に於いてもうまく学べない学生が増加している。また、自己の現状の自覚において、指導者や教員の指摘と本人との解離がみられ、指導を行っても行動変容が難しい学生が増えているなど、知識・技能面の問題だけでなく情意面の改善が困難な学生の存在が問題となってきている。こうした情意領域についての指摘についての報告は多いが、その評価・対策については具体的な方策が確立されていない。そこで、本研究においては、近年の学生の傾向について情意領域を中心に把握・分析し、情意領域に対する評価及び指導方法を模索する為に、実習において教員の指導を特に要した者とそうでない者とで比較検討を行い、さらに、学生の行動の過程を通じて考察する。<BR><BR>【方法】<BR>実習2期を実施した3年生に対し、実習において教員からの指導を特別に要した者(以下指導群)とそうでない者(以下通常群)に分け、実習評定表の情意面に絞った各項目を得点化し、それぞれ2期の実習についてMann-Whitny検定を用いて群間で比較検討を行った。また有意に低かった項目について、その具体的事例の抽出を行い行動の過程を通じて考察を加えた。<BR><BR>【説明と同意】<BR>個人が特定できないようにし同意を得て分析・考察を加えたものである。<BR><BR>【結果】<BR>情意面において実習2期共に指導群で有意に低かった項目(p<0.05)は以下の通りとなる。<BR>1)責任感(11項目中5項目)<BR>「期日・時間を守る事が出来たか」<BR>「与えられた課題を遂行する事が出来たか」<BR>「一日の開始と終了、行動計画と結果を報告できたか」<BR>「問題発生が予測されるとき、又は生じた時にすぐ相談できるか」<BR>「指示されたことに対し、結果を報告できたか」<BR>2)他者との接し方(11項目中2項目)<BR>「実習指導者と積極的にコミュニケーションがとれたか」<BR>「会話の意味内容を理解できたか」<BR>3)探究心・学習意欲(7項目中5項目)<BR>「疑問意識を持ち、調べる事が出来たか」<BR>「口頭や文章で積極的に質問することができたか」<BR>「現象を多角的に捉える視点が持てたか」<BR>「他者の意見を謙虚に受け止め、行動に反映できたか」<BR>「与えられた課題をさらに深く、勉強できたか」<BR><BR>【考察】<BR>分析を行った結果、情意面の1)責任感のカテゴリでは「課題遂行能力・報告相談」、2)他者とのコミュニッケーションのカテゴリでは「コミュニケーション・意味理解」、3)探究心向上心のカテゴリでは「疑問意識・積極的行動・多角的な視点・行動への反映・探究」といった項目が指導群において有意に低い事が示され、学習過程及び臨床能力の向上において重要な要素である事が示唆された。学生がなぜ上記の項目のような行動や結果に至ったのかといった情意面の問題を具体的に把握することは容易ではないが、その過程を分析する事が重要と考え、記録等を基に考察を加えた。行動の過程は「気づき」「理解」「評価」「行動」といった段階な構造で成り立っている。指導群では上記の項目が相互に結びついて影響し合っている事がみられ、さらに、問題となっている段階は個々人によって様々であることが考えられた。学生に的確な指導を行う為には、指導者側も個々の問題点がどこの段階にあるのかを分析する必要性がある。また、情意面の成長過程を「受け入れ-気づき」「反応-表現」「内面化-自発的行動」といった分類で見ると、情意領域の成熟は、自発的あるいは指導によるものにせよ学生の自分自身に対する「気づき」がまず必要であるとされており、学内教育と臨床実習教育においても学生に自らの問題を認識させる事が重要であると考える。<BR>今後も理学療法士養成課程において、学内教育及び実習を臨床能力に円滑に転換し適応させていくためには、知識・技能・情意の領域は単体としてではなく一体となって総合的に高める取り組みが必要である。そして、指導が難しいと言われている情意領域に対しては早期からの評価・指導方法を模索し積極的に取り組んでいく必要性がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>近年、理学療法士養成過程にて増加する情意領域の問題に対し、学生の傾向を把握・分析し、そこから情意面の評価及び指導方法を模索する事で今後の養成教育の一助とする。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), G4P3223-G4P3223, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

被引用文献 (1)*注記

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キーワード

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205573803136
  • NII論文ID
    10030945420
    130004583000
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.g4p3223.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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