<学位論文要旨>健康高齢者における午後の仮眠の効果に関する研究  [in Japanese] <Summary of Doctorate>A study on effects of an afternoon nap in the healthy elderly  [in Japanese]

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Author(s)

    • 玉木 宗久 TAMAKI Munehisa
    • 広島大学大学院生物圏科学研究科:(現)国立特殊教育総合研究所情緒障害教育研究部 Graduate School of Biosphere Sciences, Hiroshima University:(Present address)Department of Education for the Children with Emotionally Disturbances, the National Institute of Special Education

Abstract

現在, 世界的に高齢者とよばれる人(65歳以上の人)は増加し続けている(Brundtland, 1999)。このことは, 今後21世紀の中で我々が様々な課題に直面していくことを暗示しているといえよう。そのような課題の1つは, 「老衰の過程にある高齢者がいかに高い生活の質を実現できるか」ということであり, それは, いずれ高齢期を迎える多くのヒトの関心ごとである。最近, 世界保健機構は, 高齢期の問題に取り組む1つの視点として健康高齢者に注目した(Brundtland, 1999)。ここでいう健康高齢者とは, 特別な援助なしに自立して生活できる高齢者をさす。世界保健機関は, 援助を必要とする高齢者(例えば, 寝たきり老人)の話題がクローズアップされる一方で, 多くの高齢者は高齢まで健康であることを指摘することから出発し, 健康高齢者の生活の仕方がより良い老いにつながるヒントとなることを示唆している(Brundtland, 1999)。他方で, Baltes&Baltes (1990)は, 生涯発達心理学の立場から, 老衰の過程において高齢者が最適状態(optimization)となる方略の重要性を述べている。ここでの最適状態とは, 個々人の潜在的な予備能力をより良く引き出した状態を意味する。これらのことを考慮すると, 健康高齢者が最適状態となる生活の仕方を探ることは, 彼らの高い生活の質を実現する手助けとなるといえる。本研究は, そのような生活の仕方の1つとして, 午後の仮眠に注目し, その効用を調べたものである。(註 : 以後, 健康高齢者についてのみ述べるので, それを単に高齢者と呼ぶ)さて, 仮眠とは, 簡単に定義すると4時間未満の短い睡眠をさす(Naitoh&Angus, 1989)。仮眠は心身に様々な影響を及ぼしその効果は一定ではないが, いくつかの要因を考慮すれば, それは有効に機能することが広く認められている(Dinges, 1989)。ここではまず, 本研究で中心的にとりあげる2つの午後の仮眠の効果について簡単に述べておく。(1)日中の眠気に及ぼす午後の仮眠の効果 : ヒトは日中に強く眠気を感じる時間帯がある(Broughton, 1989)。その時間帯は, 若年者では14∿17時, 高齢者では位相が前進し12∿15時である。午後の仮眠はこの日中の眠気を除去し, パフォーマンスを維持・改善する効果をもつ(Dinges, 1989)。ヒトの眠気は日中・夜間を合わせて約12時間周期で変動し, それは内因性のサーカセミディアンリズムと考えられている(Broughton, 1989)。通常の生活での仮眠はこのリズムに合致して出現することが多い(Broughton, 1989)。これは単なる偶然ではなく, 午後の仮眠が内因性の睡眠・覚醒サイクルを反映し, そして, その効果の生物学的な妥当性を示唆するものである(Broughton, 1989)。(2)血圧に及ぼす午後の仮眠の効果 : 疫学調査では, 30分の午後の仮眠をとっている人は虚血性心疾患の罹患率が低いことが示されている(Trichopoulos, et al, , 1987)。この効用の理由は明らかではないが, 最近では, 午後の仮眠中に血圧が低下することが報告されており, それが虚血性心疾患や高血圧などの疾患の予防に役立っていることが示唆されている(Asplund, 1996; Bursztyn, et al., 1994)。以上に述べた眠気と血圧の2つ生体現象は, 様々な要因によって時々刻々と変動している。このような変動する生体現象は, 時に日常生活上大きなリスクとなる可能性がある。例えば, 眠気は, その増加によって目的ある行動を妨害するし, また, 血圧は高すぎても低すぎても疾患や死につながることは周知のことである。このことは, 反対に, ヒトが自己の能力をより良く発揮していくには, 眠気や血圧が適正にコントロールされなければならないことを示している。午後の仮眠は, そのような生体の現象をコントロールする手段となり, その効果は, ヒトの最適状態を引き出すよう有効に機能するパワをもっていると考えられる。ところで, 前述した眠気や血圧への仮眠の効果は, 若年者を対象として数多く示されている。しかし, 高齢者ではまだその効果はほとんど明らかにされていない。他方で, 高齢者の仮眠についての見解は研究者間で齟齬を生じている。一般に, 高齢期には, 仮眠をとる人やその頻度が増加し, また, 夜間主睡眠は浅くなり, 短縮, 分断化する。この高齢期の特徴に注目した研究者たちは, 高齢者の仮眠を夜間主睡眠の不足を補う補償的仮眠であると説明した(Miles&Dement, 1980)。さらに, 仮眠は不眠を引き起こす主要な要因であるとも述べられている(Bliwise, 1993)。このような考えは, 従来からあり現在もなお根強く残っている。これに対し, 最近の幾人かの研究者は, 高齢者の仮眠は夜間主睡眠と関係ないことを示しており, それは, むしろ, 内因性の睡眠・覚醒サイクルを反映している付加的仮眠であると捉えた(Asplund, 1996; Metz&Bunnell, 1990)。これに関連して, 社会的な観点から高齢者の仮眠が説明されてもいる。

Journal

  • Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences

    Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (26), 161-165, 2000-12-28

    Hiroshima University

Codes

  • NII Article ID (NAID)
    110000482387
  • NII NACSIS-CAT ID (NCID)
    AN10435936
  • Text Lang
    JPN
  • Article Type
    departmental bulletin paper
  • ISSN
    1340-8364
  • Data Source
    NII-ELS  IR 
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