ヒト咬筋における誘発筋電図の臨床的意義

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タイトル別名
  • Clinical Evaluation of Evoked Electromyography in Human Masseter Muscles

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抄録

顎口腔系の機能異常の診査, 診断に筋電図検査が有効とされてさまざまな方法が用いられている. 従来の筋電図法は, 記録条件により影響が大きく, 経日的な診査や各個人間での比較が困難であった. 一方, 外部から刺激を加えた時の生体の反応をとらえると,生体内の神経筋機構の伝導特性の客観的な評価を行うことができ有用な情報となる. 本研究では咀嚼筋のなかでも機能的にも形態的にも重要な位置を占めると考えられるヒト咬筋に誘発筋電図法を応用し解析することから誘発筋電図法の臨床的意義を確立しようとするものである. 実験1として機械的刺激によりjaw jerk reflexとsilent period (SP)を記録した. 記録にはアレイ状表面電極を用いた. その結果, 振幅や発現率は咬筋上方に比べ,下方で高い値が得られた. また, SPの潜時は変化しなかったのに対し持続時間は咬みしめ強度が低いと延長する傾向を示した. Jaw jerk reflexは, 神経筋接合部から伝播する様相が観察でき, 筋線維伝導速度(MECF)が計算できた. 両側において潜時やMFCVに差は認められなかった. 実験2として神経線維と筋の相互関係を詳細に調べるために実験1と同じく多極表面電極を用いて, 電気刺激を加えたときの咬筋におけるM波の様相を観察した. その結果jaw jerk reflexと同様に筋線維上を伝播する様相がみられ, MFCVが得られた. さらに, 神経線維および神経筋接合部の伝導性を表わす終末潜時(DML)が求まった. そこで, 実験的に筋疲労を起こさせた結果MFCVは低下し, 回復過程では疲労前の値に戻る様相を示した. 一方, DMLは一貫してほとんど変化しなかった. 以上の結果から次の結論を得た. 1. 咬筋誘発筋電図を多極表面電極でとらえることができ, その振幅は咬筋上方に比べ下方で大きかった. また, silent periodの発現率も下方で高く, 上方で低かった. 2. Jaw jerk reflexは両側ほぼ同様の応答が得られ, 顎機能異常の診査に応用できる可能性が示唆された. 3. 咬筋神経への経皮的電気刺激によっても誘発筋電図が観察でき, その波形は刺激強度に伴う挙動と潜時からM波と判断できた. 4. 誘発筋電図波形から筋線維に沿って伝播する様相が記録でき, そのピークの遅れ時間からMFCVが算出された. その値は過去の報告と同様の結果であった. 実験的に筋疲労を起こさせた場合, MFCVは低下する傾向を示し, 回復期には疲労前と同様の値に戻った. このことから, 筋疲労とMFCVには強い相関関係があることが示唆された. 5. 多極表面電極を用いてとらえた誘発筋電図の伝播様相から神経筋接合部の位置が推定でき, その位置におけるDMLを算出できた. 実験的筋疲労を行っても, DMLに変化ほ認められず, このことから筋疲労は神経筋接合部には影響を及ぼしていないことが示唆された. 6. 機械的および電気的刺激法を組み合わせた誘発筋電図を用いると顎機能異常の診査, 診断に臨床応用可能なことがわかった.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 56 (2), g61-g62, 1993

    大阪歯科学会

被引用文献 (5)*注記

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