学童および高齢者における歯みがき動作の特徴について

抄録

手用歯ブラシを用いて行うある特定の歯みがき方法の刷掃効果は, 刷掃者がその歯みがき動作を正しく実行し, その特徴が十分に発揮できているかどうかにかかっている. しかし, 刷掃者個人にもそれを実行できる技術が伴っていなければならない. したがって, 刷掃効果を高めるためには, 用いる歯みがき方法およびそれを実施する刷掃者個人の歯みがき動作の特徴が明らかにされていることが必要である. そして, その特徴は, 刷掃時の歯ブラシの柄のねじれ, 歯みがき圧, 歯ブラシを握る力(手指圧および握力), 上肢の関節の運動範囲および手や腕の筋の活動状態(活動電位)などによって知ることができる. ところが, 刷掃者各個人における歯みがき動作の特徴は, その年齢によってかなり異なる. そこで, 縦方向および横方向の歯みがき方法の代表としてそれぞれローリング法およびスクラッビング法(歯ブラシの握り方はそれぞれ handshake graspおよび pen graspである.)について, 学童および高齢者における歯みがき動作の特徴を分析し, 対照群(成人. ただし, 歯みがき動作の熟練者を含む.)と比較検討した. なお, 歯ブラシの柄のねじれおよび歯みがき圧の大きさは, 頸部に三軸ストレインゲージを貼付した歯ブラシを用いて, 刷掃時に生じる三方向のひずみを分析して求めた. 手指圧, 握力および上肢の関節の運動範囲の測定には, それぞれ感圧センサー, 握力計およびゴニオメーターを用いた. また, 手掌の短母指屈筋, 前腕の橈側手根屈筋および円回内筋, 上腕の上腕二頭筋ならびに肩の三角筋について, 刷掃時の筋電図を記録した. 得られた結果および結論は, 次のとおりである. 学童および高齢者においては, 両歯みがき方法の刷掃術式に基づいて正しく刷帰することは, 対照群に比べてきわめて困難である. とくに, ローリング法では回外における回転が不十分であり, 歯ブラシを歯面に押し付けて刷帰している. また, スクラッビング法ではこの方法特有の小刻みな振動動作を行うことがむすかしい. 歯みがき圧は, 対照群に比べて低い. この現象は, とくに学童において認められる. また, もともと大きな歯みがき圧を必要とするローリング法ではとくに低い. このことは, 筋力が成人に比べて, 学童では小さく, 高齢者では低下しており, したがって, 歯ブラシを握る力(手指圧および握力)が弱いことに起因している. 対照群に比べると, どちらの歯みがき方法による刷掃においでも, 上肢の関節(とくに, 手首の関節)の運動に無駄が多い. すなわち, ローリング法においては, 手首の運動範囲は, 掌屈および背屈ならびに橈屈および尺屈では大きく, 回内および回外では小さい. また, スクラッビング法では掌屈および背屈では小さく, 橈屈および尺屈ならびに回内および回外では大きい. このことから, 学童および高齢者においては, ローリング法では手首を固定しての回転動作が, スクラッビング法では手首の前後運動が柔軟に行えていないことがわかる. また, ローリング法では前腕の円回内筋および上腕の上腕二頭筋の, またスクラッビング法では前腕の橈側手根屈筋の活動量が劣っている. すなわち, どちらの刷掃法においても, 学童および高齢者ではその刷掃法の特徴を発揮するような筋活動は認められない. 以上のことから, 学童および高齢者のブラッシングの効果を上げるには, 成人に用いている刷掃時の歯ブラシ頸部のねじれを観察しながら行う刷掃訓練のほかに, スムーズな筋活動ができるように, 各筋の活動力を高めるか, あるいは補うことを加味した刷掃訓練を合わせ行う必要がある.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 58 (3), g91-g92, 1995

    大阪歯科学会

被引用文献 (2)*注記

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204209893248
  • NII論文ID
    110001723747
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.58.3_g91
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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