高濃度フッ化物の初期う蝕表層に及ぼす影響について

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タイトル別名
  • Effect of high concentrated fluoride on the surface layer of enamel subsurface lesion

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抄録

本研究は, エナメル質初期う蝕である表層下脱灰病巣(white spot, subsurface lesion)表面に高濃度フッ化物を応用した場合に生じる初期う蝕エナメル質表層の変化およびフッ素反応生成物の動態を解明する目的で行った. 着色や白斑のないヒト抜去前歯の唇面からエナメル質ディスクを作製した.表層下脱灰溶液にエナメル質ディスクを浸漬した後, APF溶液に4分間浸漬し, さらに1MKOH溶液に24時間浸漬した. 各試料表面および表層の微細構造の観察は, 原子間力顕微鏡(AFM)および高分解能電子顕微鏡(SEM)を用いて行った.化学組成分析には, X線光電子分光分析装置(ESCA)およびX線マイクロアナライザー(XMA)を用いた. AFMおよびSEM観察の結果, APF処理初期う蝕表面には, 球状の構造物が多数形成されているのが確認され, 表面から約5μmの幅で, 層状の構造物が認められた.しかし, 内層部は無処理の初期う蝕と比較して差は認められなかった.一方, KOH浸漬後の表層はAPF処理で認められた層状構造物が完全に消失し, 初期う蝕よりも凹凸が顕著な表面を呈し, 大きさの異なる球状の結晶が混在した. ESCAおよびXMAの分析結果から, APF処理初期う蝕の表面に観察された球状構造物および表層に観察された無構造な層状構造物はフッ化カルシウム様物質であることが確認された.一方, KOH浸漬後はフッ化カルシウム様物質が完全に消失していることが確認された. 以上のことから, エナメル質初期う蝕にAPF処理した場合, その表層に層状のフッ化カルシウム様物質が形成され, 表層部の強化に役立つだけでなく, 初期う蝕病巣内部の変化, すなわち, 再石灰化現象や脱灰進行の鍵を握っていると考えられる.そのため, 初期う蝕病巣の再石灰化促進には, 表層のフッ化物層状構造物を保持することに配慮したフッ化物応用法の構築が必要であると考えられる.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 63 (4), 275-286, 2000

    大阪歯科学会

被引用文献 (4)*注記

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参考文献 (22)*注記

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