ベンゼン投与によるマウス胎仔の発育・発達におよぼす影響について : とくに発生段階と関連させて

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  • EFFECT OF BENZENE ON FETAL GROWTH WITH SPECIAL REFERENCE TO THE DIFFERENT STAGES OF DEVELOPMENT IN MICE

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抄録

ベンゼンの慢性中毒症において造血機能障害がみられることについて数多くの報告があり,再生不良性貧血あるいは白血病との関連が指摘されている.さきに著者ら(1968)は,ベンゼン投与によって,マウス骨髄細胞に染色体異常が誘発され,その発化頻度と投与量との間にdose-response関係をみとめたことを報告した.ベンゼンのマウス胎仔への影響については,渡辺ら(1970)は,妊娠11日から15日のそれぞれにベンゼン3ml/kgを1回皮下投与の5群について観察を行ない,13日投与の群で胎仔異常を10%に認めたことを報告している.また岩永ら(1970)は,在胎時にベンゼン負荷をうけたマウスの生後の発育を観察し,さらに仔の成熟後,ベンゼン0.1ml/kgを5回投与した結果,白血球数・血色素量・胸腺および牌の重量が対照群に比して明らかな減少傾向を示すことを報告している.以上のように染色体異常・奇形の発生,生後の発育遅延については報告がみられるが,胎仔期(fetal stage)における影響については末だ明らかでない.著者らは,妊娠8・9日および12・13日にベンゼンを投与し,発育段階の違いによる影響の差を検する目的から以下の実験を行なった.12週齢ICR系マウスを用い,妊娠8・9日(I群)および12・13日(II群)にベンゼンを2および4ml/kgの割合で1日1回(合計2回)皮下注射の4実験群を構成した.なお,ベンゼンは等量のオリーブ油にて稀釈の上で投与し,対照群にはオリーブ油のみを投与した.妊娠19日に開腹し,胎仔死亡,外表奇形の検索ならびに胎仔,胎盤重量の測定を行った.また骨格標本を作成し,骨格系の異常,化骨の進行についても検討を加えた.さらに,ベンゼン投与の前後に母マウスの尾静脈より採血し,白血球数および血色素量について測定した.(1)胎仔重量は,I群・II群のいずれにおいても4ml/kg投与群において有意の低値が示された.(2)胎盤重量は,II群のうち4ml/kg投与の群でのみ有意の低値が認められた.(3)胎仔死亡の頻度は,群間の比較で明らかな差は認められなかった.(4)外表奇形の発生頻度も同様にいずれの群においても明らかな増加は認められなかった.(5)頸椎体の化骨のみられない胎仔の割合は,I群のうち4ml/kg群と,II群のうち2ml/kgとで有意の増加がみられ,指骨・趾骨,距骨・踵骨では,II群のうち4ml/kg群で化骨数が有意の低値を示した.尾椎骨では,II群のうち4ml/kg群で対照群に較べ低値を示す傾向がみられたが,明らかな差をみるにいたらなかった.(6)白血球数では,I・II群いずれも4ml/kg群で投与24時間後に顕著な減少が認められ,血色素量もまた減少傾向が明らかであった.以上のように,I・II群でともに4ml/kg群で胎仔重量の低値がみとめられたが,とくに化骨の遅延についてはII群のうちの4ml/kg群で顕著であり,加えて胎盤重量にも明らかな低値が認められた.これらの現象は,ベソゼン投与によりいずれの群でも子宮内発育遅延がもたらされたものの,妊娠8・9日投与の群と12・13日投与の群とでは異なる結果が示され,これは発育段階異性にもとづくものと考えられる.いずれにしても,他の化学物質を用いて行った実験結果と合わせ考えるとき,胎仔の重量を化学物質の胎仔におよぼす影響を測るためのひとつの指標として用いうる可能性が示された.

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