禁止の場面における現実の言語表現 : 医師と美術館員の場合

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タイトル別名
  • What Modes of Expression Does a Person in Charge Use to Forbid Somebody from Committing a Prohibited Act? : A Case Study of the Language Used by Doctors and Curators
  • キンシ ノ バメン ニ オケル ゲンジツ ノ ゲンゴ ヒョウゲン イシ ト ビジュツカンイン ノ バアイ

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抄録

本論は、「コミュニケーション能力」、「コミュニケーション」が日本語教育のキーワードとして浮上している現状を踏まえ、今後の日本語教育の教育方法、教材開発、教員養成のあり方を探ることを前提に、教科書と現実の言語使用の比較考察を行なうものである。具体的には、先行研究において禁止の機能としては使用されない可能性が明らかにされた「ないでください」(以下「な」と記す)を軸に、「な」が禁止表現として扱われる場面・状況と提出されている表現を教科書から抽出し、それと同じ現実場面を選択して、現実の自然発話データを採取する事例研究を行ない、教科書との比較考察を図った。   調査は、医師が患者の行為を制する場面、美術員が写真撮影をしようとしている客を制する場面の2場面実施した。両場面における自然発話データは、前者の場合は看護師に依頼し、後者の場合は調査協力者が実際にカメラを構えることにより発話を引き出して採取し、分析した。その結果、医師の場合は、患者の生命に危険が及ぶ可能性の低い事項を禁ずる場合には共感性の高い心積もり依頼表現、心積もり誘発表現、あたかも依頼表現の使用率が高く、外科において患者を制しなければ患者に致命的な不利益を与える場合には、肯定依頼表現、断定宣告表現、否定依頼表現の使用率の高いことが明らかになった。   一方、美術館員の場合は、100%が謝罪および呼びかけ表現を使用しており、約半数が規則に関する事実陳述以外の禁止理由に言及し、相手が納得しやすく相手の面子を傷つけないための配慮がみられた。また、62%が動詞を使用せず言い切らない形式で相手に行動変容を促していた。動詞を使用した場合も、写真を撮る立場に立っての不可能表現や、注意する立場からの恩恵表現つき不可能表現が使用され、相手への共感を示すことにより丁寧度の高い表現が使用されていた。医師、美術館員いずれのケースも、「な」の使用は1例もみられなかった。本事例研究の結果から、1.「な」が禁止の機能として学習項目化されている現行の教材は適切ではない、2. 禁止の場面においては相手の面子を傷つけない配慮表現が使用される、という二点について今後の教材開発に向けての教育的視点が見出せた。

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