マウスの坐骨神経切断後に生じる足底踵部の褥瘡様皮膚損傷

DOI
  • 小形 晶子
    神戸学院大学総合リハビリテーション学部医療リハビリテーション学科 神戸大学大学院医学系研究科保健学専攻
  • 八田 京子
    神戸海星病院
  • 栢原 哲郎
    神戸学院大学総合リハビリテーション学部医療リハビリテーション学科
  • 三木 明徳
    神戸大学医学部保健学科

この論文をさがす

抄録

【目的】褥瘡は長期臥床者や、脊髄損傷や糖尿病による末梢神経障害などを持つ患者に多く発生し様々な治療が行われているが、有効な治療法は確立されていない。物理療法や運動療法などは褥瘡の予防や治療法の1つとして効果が期待されているが、まだ十分な検証は行われていない。我々の研究グループで神経再生や脱神経による筋の廃用性萎縮に関する実験を行ったところ、坐骨神経を挫滅または切断したマウスでは、高頻度に足底踵部に褥瘡様の皮膚傷害が観察された。そこで今回、マウスの坐骨神経を切断し姿勢や歩行を観察するとともに、損傷が生じた足底踵部皮膚を光学顕微鏡で観察し、皮膚損傷の原因を調べた。<BR>【方法】ddY系雄マウスを6匹使用した。麻酔した後、左坐骨神経を大腿中央部付近で切断した。坐骨神経切断5日後と7日後に、マウスをアクリル製ケースに1匹ずつ入れ、底面と側面から静止時と歩行時の左右の足底の接地状態をデジタルビデオカメラを用いて記録し足底皮膚を撮影した。その後マウスを4%パラホルムアルデヒドと2.5%グルタルアルデヒドの混液で灌流固定して足底踵部の皮膚を採取し、1%四酸化オスミウム溶液で後固定しエポキシ系樹脂に包埋した。厚さ1μmの皮膚横断切片を作製し1%トルイジンブルーで染色した後、光学顕微鏡にて観察した。<BR>【結果】マウスの姿勢と歩行の観察では、健側の足底踵部は静止時でも歩行時でも常に床から離れているが、坐骨神経切断側では足底踵部は常に床に接地しており常時圧迫された状態になっていた。切断後5日目頃から切断側の足底踵部に皮膚の発赤や表皮の剥離が始まり、7日後では足底全体に顕著な腫脹が見られた。光学顕微鏡で観察すると、切断後7日目には最も圧迫される部分の表皮層で膨化変性した細胞が観察された。また、健側の同部位に比べて表皮や真皮が肥厚し、線維芽細胞が増加しており、トルイジンブルーに濃染される小型球形細胞が多数認められた。<BR>【考察】マウスの足底踵部は表皮が薄く、皮下組織も少ない有毛型皮膚で通常では接地しない部位である。坐骨神経切断によって下肢の骨格筋が麻痺し、この部位に体重がかかり摩擦や衝撃も加わるようになることが、高頻度で皮膚損傷が起こる主な理由であると思われる。神経切断後の表皮層の膨化変性した細胞は、圧迫によって表皮細胞が壊死に陥ったものと考えられる。真皮全層に見られた小型球形細胞はマクロファージや好中球、リンパ球などの炎症性細胞であろうと思われる。これらの形態学的変化は褥瘡でみられる病変と非常によく似ていた。今回の実験で行った方法は、これまで提唱されている褥瘡モデルと異なり、皮膚損傷を作る部位には人為的処置を加えていないことから、神経傷害を持つ患者に起こりやすい褥瘡の発症プロセスにより近いモデルであり、褥瘡の発生機序や治療効果を検証する上で、1つの実験モデルとして利用できる可能性がある。<BR><BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), A0465-A0465, 2007

    公益社団法人 日本理学療法士協会

キーワード

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ