5.三重県地震防災読本-3日間を生きのびるために-の制作

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抄録

三重県は、幸いにして阪神・淡路大震災の直撃は免れたものの、被災地域近隣の自治体として、決して他人事ではない大きな課題を提起されたと受けとめている。そのため、本県では地域防災計画の抜本的見直しをはじめとして、直下型地震を対象とした被害想定調査の実施、防災情報システムの開発や再整備、また、これまでとは趣向を変えた様ざまな防災訓練の実施や阪神・淡路大震災の揺れを再現できる地震シミュレータカーの新規導入等、「防災」をキーワードに多様な行政施策を実施あるいは着手し、三重県における新たな防災体制を構築しようとしている。本稿では、これまで三重県が実施してきた防災行政施策のうち、1996年1月に県内の全世帯(約62万世帯)に配布した地震防災に関する啓発冊子「三重県地震防災読本」の制作について、内容の紹介を中心に、その後の展開も含めて論じてみたい。地震防災に関する啓発冊子といっても、これまでも沢山の種類の冊子が自治体や関係機関から発行されてきたが、本県の制作した「三重県地震防災読本」(以下「読本」と略す。)は、地震災害が起こってからの住民の行動パターンや行動指針について重点的に取り扱っているという点で、他にはない独自性のあるものだと考える。この読本の制作にあたっては、京都大学防災研究所の林春男教授に全面的な指導をいただいた。林教授の熱心な指導がなければ、約2か月という短期間での完成はなかった。また、印刷された62万冊の読本を迅速に県内全域の各家庭に配布するという膨大な作業の労を執っていただいた69市町村の関係者の存在なくしては、この事業の成果は得られなかった。合わせてここに感謝の意を表したい。三重県地震防災読本はA5版42ページの「オリジナル版」を制作した後、「点字版」をはじめ、「ビデオ版」、「インターネット版」、「FAX情報版」と、この1年間に意外なスピードで自己増殖を始めている。また、他の自治体や危機管理に熱心な企業からの問い合わせが今でも続いており、既にこの読本の基本コンセプトを採用して、独自の地震防災啓発冊子を制作された自治体もある。今後も、住民プリペアドネス(事前準備)の向上という新しい視座に立った「三重県地震防災読本」の新たな展開を考えていくとともに、これをきっかけとして、「防災」という最も基礎的な社会機能に、住民本位で親しみやすいという意味で「ポップ」な要素を導入 して、マンネリズムや形骸化に対抗していくという様ざまな試みを企てたいと目論んでいる。

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