3-9 災害時第二通信網の構築から考えるDCP (District Continuity Plan)の経営上の可能性について

  • 守,茂昭
    財団法人都市防災研究所、東京駅周辺防災隣組、高度情報通信都市・計画シンクタンク会議

書誌事項

タイトル別名
  • 3-9 Investment in Disaster Prevention Infrastructures Including "Secondary Communication Network" for District activity Continuity Plan

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抄録

DCP(地区活動継続計画、District Continuity Plan)は東京駅周辺防災隣組(東京駅・有楽町駅周辺地区帰宅困難者対策地域協力会、以下「防災隣組」と略す)の評議委員である東京大学都市工学科小出治教授の提案による取り組みで、地区内の事業所同士、あるいは公共と民間との間で協調的な対策を行うことによって大丸有地区(大手町・丸の内・有楽町地区)の防災活動を担い、企業単独では行いにくい対策を地区として行うことで、地区全体の防災力、業務継続性を高める趣旨の対策である。すなわち、地域としてインフラの安定性や冗長性を高めておけば、帰宅困難者のような移動市民にも被災対応の道を開き、また、個々の企業が担うべき負担を軽減でき(例:電力が停電しないかまたはごく早期に復旧すれば非常用発電の負担は減る)、ひいては(業種・業態にもよるが)バックアップ床への避難を必要としなくなる場合も考えられ、個々の企業のBCP策定のハードルを低くすることもできるわけである。防災隣組の活動の中からDCPが生まれた原因として、このコンセプトが帰宅困難者のような移動中の市民の被災対応に道を開くものであったことがあげられる。従来の防災計画において移動中の市民は例外的な存在として位置づけられており、移動市民の視点を中心に据えた被災対応は充実していないのが実際である。しかし、時代の変化は、例外であったはずの移動市民を多数派にしつつあり、その典型例である帰宅困難者への対応努力が、他の多くの移動市民の利便にも繋がり始めてるといえる。防災隣組では、DCPの具体的指針として、「安定通信」、「安定電源」、「安定トイレ」の3点に力点を置いて日々、地区内の防災活動を進めている。かつて内閣府中央防災会議専門調査会「民間と市場の力を活かした防災力向上に関する専門調査会」において、「ビジネスの延長線上として結果的に防災につながる」防災活動が、社会の防災活動を現状以上に高めるうえで必要であることが指摘されている。今日、防災関係者の蓄積する災害対応のノウハウと、一般市民の持つそれとの間に激しい落差があるが、これは各種の被災対応の普及活動が共通して直面している壁であり、同専門調査会の指摘はこの壁をいかに克服すべきであるかについて的確にとらえたものであると言える。この指摘に合致するような実践活動については、街づくりNPOや町会等でいくつかの試みがある が、その多くの形は防災以外の活動目的で行われる諸活動が結果的に防災に役立つ、という形態である。一方、防災隣組が取り扱うターミナル駅周辺においては、不特定多数の被災者が使う防災インフラストラクチャーに、いかにして経済合理性を見出し、その実現を諮るかが問題となる。防災隣組の扱うフィールドとしては、特定できる市民より、不特定多数市民の活動合理性が成り立つ形で防災活動を実現する必要が出てくるわけである。平成20年度、総務省「戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)地域ICT振興型研究開発」として、「Wimaxの普及を視野においた東京駅周辺業務市街地とCATV電話網の接続による帰宅困難者対応第二通信網の研究開発」が採択され、その結果、平成20年度に東京駅周辺防災隣組に「災害時第二通信網」が試験構築された。「災害時第二通信網」についてはかねてから「災害時第二通信網の構築に向けて」等の研究により、その論理的可能性が言及されていたが、被災時に一次キャリアの輻輳を迂回する通信手段で、かつ、不特定多数の市民が活用しうる非常用通信として、また、それでいて極めて安価に実現できる通信手段として期待されていた。本論文では、災害時第二通信網をはじめとする、将来DCPを実現するために期待を寄せるインフラストラクチャーが、経営上必要とする条件を考察する。その上でDCPに用いるべきインフラストラクチャーの整備の在り方について、逆説的に非防災目的の投資効用で経営を成立させることが必要になることを主張するものである。

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