「アラブ動乱」を分析する:体制内政治エリート同盟と路上抗議運動の連関性に着目して

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  • Analysing “Arab Uprisings”: Focusing on the Relations between Ruling Elite Coalitions and Street Protest Movement

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抄録

2010~ 11年、チュニジアに始まった、路上抗議運動の拡大から政権転覆に至る一連のアラブ諸国における政治変動は、個々の国の政治体制や社会経済的状況、対外関係などにおける固有の要因に基づいて、異なる経過と結果を生んだ。いかなる条件のもとでこうした大規模民衆運動が発生し、いかなる条件で政権交代に至るのかを分析するためには、個々の事例における体制内政治構造と社会運動、および国際関係を複合的に視野にいれることが肝要である。本論では体制政治エリート同盟のあり方と、路上抗議運動のあり方、および国外主体の役割に着目するが、それぞれが相互に影響を及ぼしあうことを前提とし、その影響度合いを「脆弱(敏感)性」と名付ける。その上で、体制エリート同盟と路上抗議運動との間の相互の脆弱(敏感)性、およびそれぞれの国外主体との間の脆弱(敏感)性に応じて、政変の経緯および政権交代後の体制再編のあり方が変化することを論ずる。チュニジア、エジプトの事例では体制エリート同盟および路上抗議運動ともに相互に脆弱であり、かついずれも国外主体(具体的には米政権および国際機関)の動向に敏感であったことで、暴力的衝突や政体の劇的な変質を伴うことなく政権転覆が実現した。そのため政権転覆後の支配的政治エリートにおいても、旧政権下でエリート同盟の辺境におかれた勢力が主流を占めることとなった。他方リビア、シリアの場合はそうした脆弱(敏感)性に基づく関係が体制エリート同盟と路上抗議運動の間に存在しなかったため、衝突は暴力的、長期的なものとなった。両者の事例で政変の成否を決定したのは路上抗議運動が強く脆弱性を持つ国外主体の対応であり、国内主体間に脆弱性が見られない場合には政変の展開に国外要因が重要な役割を果たすことがわかる。従来の政治学ではアラブ動乱を十分分析できたとは言い難く、体制論、社会運動論、国際関係論と細分化された諸分野を総合的に組み合わせて分析する枠組みの開発が必要である。本論はそのための一試論である。

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