LHC実験 質量126GeVを持つヒッグス粒子の発見 Observation of a Higgs Boson with a Mass of 126 GeV at the LHC

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抄録

欧州原子核研究機構(CERN)においてATLAS実験とCMS実験は2012年7月4日に「ヒッグス粒子らしい新粒子を発見した」として合同セミナー及び記者会見を行った.その粒子の性質については十分理解できていないことから学術的な正確さを期すため「らしい」という言葉を補ったが,この研究に携わった多くの研究者にとって約50年にわたって探し続けてきた「ヒッグス粒子」発見の歴史的な発表であった.素粒子の標準理論には12種類のフェルミオン(クォークとレプトン),4種類のゲージボソン,そして1種類のヒッグス粒子,合計17種類の素粒子が存在する.この17個の素粒子によりこの世界の物質とその間の相互作用が非常に上手く記述できることがこれまでの数々の実験から示されてきた.しかしながら,この17個の素粒子の中でヒッグス粒子は唯一その存在が実験で確認されていなかった粒子で,他の素粒子に「質量を与える」メカニズムの証拠となる素粒子である.そもそもゲージ不変性を基本原理としている標準理論では素粒子は一般に質量を持つことができない.そのためW/Zボソンや電子等の素粒子が質量を持っているという観測事実は標準理論では説明できないように思えるが,1964年にピーター・ヒッグスらは,標準理論に自発的対称性の破れを応用することでローカルゲージ不変性を保ちつつ,素粒子に質量を与えることに成功した.これがヒッグス機構であり,その副産物としてヒッグス粒子と呼ばれるスカラー粒子が予言された.したがって,素粒子の質量の起源であるヒッグス粒子を発見することは標準理論を完成させる上で必要不可欠であり,ある意味標準理論において残された最後の,そして最重要研究テーマであった.2012年7月,標準理論のヒッグス粒子探索の研究においてATLAS実験は統計的有意度5.9σ,CMS実験は5.0σの事象超過を質量126GeV付近に発見した.先に述べたようにこの時点では「らしい」という言葉を補っていたが,2012年12月まで取得したすべてのデータを使って研究を進めた結果,2013年3月に結合定数の強さが標準理論と無矛盾であることやスピン・パリティが0^+であるという強い示唆を得たため,この新粒子は「らしい」がとれて晴れて"a Higgs boson"となった.その根拠となる様々な結果は本文に譲って,ここでは3つの結果を挙げる.標準理論のインプットパラメータの一つであるヒッグス粒子の質量はATLAS実験125.5±0.2(stat.)^<+0.5>_<-0.6>(syst.)GeV,CMS実験125.7±0.3(stat.)±0.3(syst.)GeVである.標準理論のヒッグス粒子に対する信号の強さ(標準理論であれば1となるパラメータ)はATLAS実験1.33^<+0.21>_<-0.18>(125.5GeV),CMS実験0.80±0.14(125.7GeV)で標準理論のヒッグス粒子の信号と無矛盾である.また,この粒子のスピン・パリティについては0^+に対して0^-,1^±,2^+のモデルは97.8%CL(以上)で排除した.このヒッグス粒子が標準理論のヒッグス粒子かどうかをより精度良く見極めるためには更にデータが必要である.標準理論の素晴らしさをより一層実感するか,それとも標準理論を超えた物理を垣間見るか,LHC実験の再開が非常に楽しみである.

We, the ATLAS and CMS collaborations, announced the observation of a new particle at a mass of 126 GeV in the search for the Standard Model Higgs boson at the LHC on the 4^<th> July in 2012. After that, by checking couplings, spin and party of this new particle with the full dataset taken in 2012 we reported that the observed particle was a Higgs boson. The mass of the Higgs boson is measured to be m_H=125.5±0.2 (stat.) ^<+0.5>_<-0.6> (syst.) GeV and 125.7±0.3 (stat.) ±0.3 (syst.) GeV by ATLAS and CMS, respectively. The signal strength parameter μ is also given to be 1.33 ^<+0.21>_<-0.18> (for m_H=125.5 GeV) and 0.80±0.14 (for m_H=125.7 GeV), respectively, which is consistent with the Standard Model Higgs boson hypothesis μ=1. Studies of spin and parity quantum numbers shows compatibilities with the Standard Model 0^+ for the Higgs boson, whereas all alternative hypotheses studied, namely some specific 0^-, 1^±, 2^+ models, are excluded at CL above 97.8%. Further data is necessary to investigate the properties of the observed Higgs boson in order to see whether the Standard Model is still valid or the physics beyond the Standard Model can be found in a TeV energy scale.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 69(2), 83-92, 2014-02

    一般社団法人日本物理学会

キーワード

各種コード

  • NII論文ID(NAID)
    110009804900
  • NII書誌ID(NCID)
    AN00196952
  • 本文言語コード
    JPN
  • ISSN
    0029-0181
  • NDL 記事登録ID
    025188999
  • NDL 請求記号
    Z15-13
  • データ提供元
    NDL  NII-ELS 
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