『マハーバーラタ』に描かれたアシュヴァメーダのダクシナー

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タイトル別名
  • Daksina at the Asvamedha as Described in the Mahabharata:
  • Daksina at the Asvamedha as Described in the Mahabharata : Its Ritualistic Features Revealed in Comparison with the Vedic Texts
  • ――ヴェーダ文献との比較から見えてくるその祭式学的特徴――
  • Its Ritualistic Features Revealed in Comparison with the Vedic Texts

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抄録

『マハーバーラタ』(Mahabharata)第14巻(MBh14巻)は「アシュヴァメーダの巻」(Asvamedhika-Parvan)と名付けられており,ユディシュティラ王による大掛かりなアシュヴァメーダ挙行の経緯を描いている.そこでは,大戦争を通じて多くの同族を殺した王が,その罪からの解放を願い,効験あらたかな滅罪儀礼であるアシュヴァメーダを行う.その上で,本祭に先だち十ヶ月間放浪する馬をアルジュナが守護し,各地で戦争の残敵を撃破する英雄譚が展開される.他方,MBh 14巻には,断片的ではあるが,アシュヴァメーダの祭式描写が数多く含まれており,そこからこの巻の編纂者がどのような祭式学的知見を有していたかを推知しうる.そのうち特に注目されるのは,MBh 14.91.7-19で描かれているダクシナー(祭官への報酬)の描写である.そこには,Satapatha-Brahmana=(SB)など,一部のヴェーダ祭式文献が示す規定と共通する要素が認められるからである.本稿では,これら祭式文献のにおけるダクシナー規定と,MBh 14巻におけるダクシナー描写とを比較し,同巻編纂者がどのような祭式学的知識をもち,またそれを物語の劇的展開にどう活用したかを考察した.その主な検討結果は以下のとおりである.(1)MBh 14巻におけるダクシナー描写には,祭式学の視点から次の三つの特徴が指摘できる:[A]アシュヴァメーダのダクシナーを「大地」とする(MBh 14.91.11a-b);[B]祭式終了後,祭主は森林生活に入る(MBh 14.91.12a);[C]大地(国土)は四等分されて四大祭官に分与される(MBh 14.91.12b-d).(2)祭式文献の規定を照合すると,上記[A]〜[C]の三特徴は,アシュヴァメーダのほかプルシャメーダ,サルヴァメーダを含む都合三祭式のダクシナー規定に散在している.つまり,MBh 14巻のダクシナー描写は,三つの異なった祭式規定の複合からなる.(3)祭式文献のうち,上記の三特徴を全て示すのはSBのほか,Sankhayana-およびApastamba-Srauta-Sutraだけである.このことから,MBh 14のダクシナー描写は,これら三文献に共通して伝えられている伝承に起源を持っていたと推測される.

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