小学校低学年における関係としての社会の学習 : Getting Started in Philosophyの分析を通して

書誌事項

タイトル別名
  • The Possibility of Learning about Society as a Relation in the Early Elementary Grades : An Analysis of "Getting Started in Philosophy"
  • ショウガッコウ テイガクネン ニ オケル カンケイ ト シテ ノ シャカイ ノ ガクシュウ : Getting Started in Philosophy ノ ブンセキ オ トオシテ

この論文をさがす

抄録

小学校低学年において求められる,社会の学習とはどのようなものであろうか。本稿では,関係としての社会の学習という新しい可能性を究明するために,幼稚園児から小学校1年生向けの哲学することを教える活動集Getting started in philosophyのカリキュラム構成を分析した。15の単元から編成される"Getting started in philosophy: A Start-Up Kit for K-1"は,教育内容として,哲学すること,すなわち世界がどのように意味づけられているのかを吟味すること,に典型的な思考の動きを選択し,その配列として,その思考の流れが作る共同体の質が,共同体から反省的な共同体へ,反省的な共同体から反省的な探究の共同体へと段階的に関係が発展するように構成している。このような構成によって,子どもたちが,世界がどのように意味づけられているのかを吟味することで関係を発展させるようにしている。そして,関係を発展させる第1の段階では,言語使用を扱うこと,聴き合いをすること,という2つの原理にそって,それぞれの信念に問いを立てるように,第2の段階では,複数の問いを扱うこと,その相対化をすること,という2つの原理にそって,子どもたちが共同で問いを立てるようにする。それによって子どもたちが,より上手く問いを立てるプロセスを内面化して,自ら関係を発展することを学習するように構成していた。この社会の学習は,以下の3つの特質を持っている。第1は,発見されるべき答えがなく,その代わりに問いを立てることが目指されることで,個人が持つ"独自"な思考の価値を社会の中に位置づけるようになる。第2は,社会を自分と切り離された対象として認識するのではなく,社会を自分たちの考えの関係そのものであると認識することで,社会とは自分たちが変えることのできるものであることを発見する。第3は自由な個人同士が,自分たち自身で相互に変革しあうプロセスを内面化することで,関係としての社会を実際に作り出せるようにする。このような特質から,関係としての社会の学習は,社会への関心と期待を,偶然的なものでなく,自分たちで創りだすことを可能にするという,小学校低学年における社会の学習の新しい考え方を作り出しているのである。

収録刊行物

  • 社会科研究

    社会科研究 81 (0), 51-62, 2014

    全国社会科教育学会

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ