富士山南東斜面森林限界の上昇にともなう林床植物コケモモの生育環境と生育状況および形態変化

書誌事項

タイトル別名
  • Community structure and morphological changes of Vaccinium vitis-idaea at a tree-line of south slope in Mt. Fuji.
  • フジサン ナントウ シャメン シンリン ゲンカイ ノ ジョウショウ ニ トモナウ リンショウ ショクブツ コケモモ ノ セイイク カンキョウ ト セイイク ジョウキョウ オヨビ ケイタイ ヘンカ

この論文をさがす

抄録

富士山は、地質学的に新しい火山で、森林限界は現在も一次遷移の進行とともに上昇している。特に富士山南東斜面は、1807年の宝永の噴火により森林が壊滅的打撃を受け、現在一次遷移が急速に進んでいる。  コケモモは、日本では亜高山帯や高山帯に広く分布する矮性低木で、富士山でもカラマツ林を中心に広く分布している。乗鞍岳の風衝地では、ハイマツがコケモモの生育を助け、ハイマツがコケモモにとってナースプランツとなっていることが示されているが、富士山にはハイマツは存在しない。富士山の森林限界では、カラマツがハイマツのニッチを占めている。カラマツは落葉広葉樹であり、ハイマツは常緑針葉樹である。また、カラマツは高木になるのに対し、ハイマツはその名の通り高木にはならない。また、コケモモは環境が変化するに従い形態を大きく変化させ、環境に適応した形態をとることが知られている。  このような違いをもとに、本研究では、遷移が現在も進行している富士山南東斜面で、斜面上部から下方に向けてベルトトランセクト(幅1m、長さ70m)を設置し、遷移の進行にともなうコケモモの生育環境の変化と分布を明らかにするとともに、コケモモが生育環境によりどのように形態を変化させるのかを明らかにした。設置したとランセクトの上部は森林限界のより上部の裸地から、コケモモが分布しなくなるカラマツ林林床下部までが含まれようにした。  調査の結果、コケモモの分布は、森林限界付近のカラマツ林と裸地が接する明るい環境に密な群落を形成していた。生産構造図を作成した結果から、コケモモは、カラマツ林の外側では背が低く葉を下の方まで付けることで光を有効に利用していることが明らかとなった。また、森林限界のカラマツ林の内側では、背が高くなり、葉は上方に多く見られ林の外側よりも暗い環境に適した生産構造図となっていた。一方、調査地内の裸地ではコケモモは全く観察できなかった。カラマツ林林床では、水分環境と窒素環境は良かったものの光環境が悪く、コケモモの分布は疎になっていた。また、林床にもところどころ明るい場所がありそのような場所にはコケモモは多く見られた。典型的なカラマツ林林床では、生産構造図より林床のコケモモは葉量が少なく上から下までほとんど一様に葉を付けるような形態をしていた。また、当年枝密度、生産量同様に相対照度30%までは相対照度とともに増加し、30%以上で一定になった。葉数、当年枝長、LMAも同様の傾向があった。一方で、葉の大きさや節間長については場所による差はなく、先行研究のハイマツ林とは異なった結果が得られた。  以上のことから、富士山南東斜面では、コケモモにとってカラマツは、裸地の厳しい環境から保護することにより、ナースプランツとなっていることが明らかになった。一方で、カラマツが大きくなると、光を遮ることなどで、コケモモにとっては生育に良くない環境を作ることが明らかとなった。また、相対照度30%がコケモモの分布、生長、形態に大きな影響を及ぼすことで重要な値であることが明らかになった。

収録刊行物

  • 富士山研究

    富士山研究 3 19-28, 2009-03

    富士山科学研究所

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ