岡本綺堂の劇作法と二代目市川左団次-史劇『維新前後』について-

抄録

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『維新前後』は、「素人」の劇作家・岡本綺堂が初めて二代目市川左団次のために書いた作品である。川上音二郎が旗揚げし、左団次が出演する革新興行の脚本を依頼された綺堂は、それに応えて、「奇兵隊」と「白虎隊」という二つの戯曲を執筆し、この二作を併せて通し狂言『維新前後』とした。初演は明治四十一年九月の明治座である。 まず、前篇の「奇兵隊」において綺堂は、「頭領株」の左団次のために「英雄」の役を用意した。左団次は役作りに苦心し、旧劇にはない「磊落」さを表現しようとしたが、それは必ずしも成功したとはいえない。しかし一方で、作者綺堂が、「髪梳き」という歌舞伎や新派に頻出する劇作法を引用し、左団次の相手役に市川莚若(後の市川松蔦)という美貌の女方を配して見せ場を設けている。

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