主観的充実感とビッグ・ファイブ

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  • シュカンテキ ジュウジツカン ト ビッグ ファイブ

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パーソナリティ研究における「人間―状況論争(person-situation debate)」がもたらした研究動向のひとつとして、ビッグ・ファイブ(特性5因子論)研究を中心とする特性論的立場の復権があげられよう。こうした立場に立つ研究は、人々が日常他者の性格記述に用いる用語の分析や、特性もしくは関連する行動の因子分析結果が、通文化的、通年代的に5因子に収束されることを根拠に、特性概念がパーソナリティの説明因として有効に機能することを繰り返し主張している。このような研究動向が、人間―状況論争で問題となった現実場面での行動の予測性を高め、論争の解決につながるか否かに関しては、なお一層論議を重ねる必要があるが、少なくともパーソナリティ概念を再整理・構築してゆくための基盤となる考え方のひとつとして、重要な役割を果たしつつあることは事実であろう。  ビッグ・ファイブ研究のもうひとつの大きな貢献は、特性概念の根拠となる生物学的、神経・生理学的側面を探求する研究の活性化をもたらしたことであろう。パーソナリティに関する進化論的アプローチや行動遺伝学的なアプローチは、ビッグ・ファイブ研究と連携をとりながら、個人差がもたらされる根源のひとつとして、個人の遺伝的な特徴が、従来考えられてきたよりも大きな規定因として、個々の資質の相違に関している可能性を示唆している。たとえば、Loehlin(1992)は行動遺伝学的な手法に基づく共分散構造分析により、ビッグファイブの遺伝率(注1)を推定している。Jangら(1996)によれば、この比率はさらに高いとされている(表1)。また、Zuckerman(1991)は、特性上の相違の基盤に、神経生理学的なメカニズムの個人差があることを主張しているが、こうした神経生理学的なアプローチによって個人の気質の相違を探ろうとする研究も、不安やストレス研究を中心に急増している。  こうした研究の一端として、Tellegenら(1988)は、別々に育てられた一卵性の双子でも、一緒に育てられた一卵性の双子と同程度に、しかも二卵性双子よりもはるかに高い、パーソナリティの類似性がみられることを明らかにしている。さらにTellegenらによれば、こうした遺伝的な類似性は、情緒的な側面にも当てはまることが指摘されている。日常生活の中で示される情緒的な特質とパーソナリティの関連は、これまでにもさまざまな形で論議されてきたが、Tellegenらの研究は、こうした情緒的な特質の背景にも遺伝的な傾向性があることを示唆している。

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