ノーザン・ダイメンションからバルト海地域プログラムへ : EU統合の深化・拡大と地域協力の変容

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  • ノーザン ダイメンション カラ バルトカイ チイキ プログラム エ EU トウゴウ ノ シンカ カクダイ ト チイキ キョウリョク ノ ヘンヨウ

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抄録

本稿は,EU統合の深化・拡大の下における地域協力の変容の一例として,バルト海地域に焦点を当て,(1)フィンランドのイニシアチブによって導入されたノーザン・ダイメンション(ND : Northen Dimension)政策の登場から,(2)バルト海地域プログラム(2007-2013年)に至るEUの内外地域を包摂した協力枠組の変化について考察する.これによって,バルトにおけるメゾリージョン・レベルの地域協力が,ヨーロッパにおける分断を克服する試みであると同時に,地理的スケールの再構築を通じた「諸地域からなるヨーロッパ」に連なる内発的発展の実験室であることを明らかにする.冷戦の終焉は,バルト海地域を二つのシステムが対峙する場から「一つのヨーロッパを模索する場に変えた.EUは,単一市場の形成に合わせてEU財政を改革し,マルチレベル・ガバナンスに基づいた地域政策,特にクロスボーダー・コーペレーションを強化した.それは,EU拡大とともに,欧州北部の自発的地域協力と出会い,バルト海地域は,INTERREGを含む極めて多様な地域協力が重層する場となり,さまざまなアクターが参加する多層的な地域協力を束ねる枠組みとしてノーザン・ダイメンションが登場した.他方で,グローバリゼーションは,競争優位の源泉としての地域の役割を高めている.これに対応するために,EUは,単なる再分配政策ではなく,人材やイノベーションへの投資を刺激し,地域のソーシャル・キャピタルを高める触媒として地域政策を活用しようとしている.財政同盟を欠いているEUの財政規模はGNIの約1%と小さいが,それは優先課題を変化させるツールとしての役割を果たしており,ボーダー・リージョンに新たな内発的発展の機会をもたらしている.こうしたEUの変化は,ミクロリージョン,メゾリージョン,マクロリージョン(共通空間あるいは地域統合)という多層的な関係性にロシアを誘い,欧州近隣諸国パートナーシップ・クロスボーダー・コーペレーション(ENPI-CBC)は,3Cマイナス(congestions,criminality,closure)を特徴としてきたEU・ロシア間のボーダー・リージョンにも内発的発展の可能牲を生み出している.一つの到達点を示すのがバルト海地域プログラム(2007-2013年)である.

収録刊行物

  • 経済学季報

    経済学季報 58 (4), 69-120, 2009-03-20

    立正大学経済学会

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