<特集論文 2>クレズマー、あるいは音の記憶の分有--クレズマー・リヴァイヴァルまでの道のり
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- 黒田, 晴之
- 松山大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Klezmer or the Sharing of Musical Memories: The Path to the Klezmer Revival
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抄録
「クレズマー」と呼ばれる東欧ユダヤ人の音楽が、リヴァイヴァルしたことに繋がるトピックを、20世紀初めから現在まで辿るのが本論の目的である。さらにはそれを記憶の媒体の変遷としても跡付ける。20世紀初めに東欧ユダヤ人のなかから、ナショナリズムやシオニズムに基づいて、ユダヤ音楽学の確立を目指す研究者が輩出し、基本的には口伝によってのみ伝承されていた東欧ユダヤの音楽が、これによって初めて発掘・保存の対象となった(楽譜や歌集が記憶の媒体になった)。東欧ユダヤ人の移民先のアメリカで、クレズマーがその黄金時代を迎える一方で(ニューヨークのイディッシュ劇場、ユダヤ人向けのレコードやラジオが、記憶の媒体として新たに加わる)、東欧ユダヤの文化はホロコーストによって破壊された。かれらの音楽の発掘と保存は戦後になっても、アメリカ国内で続けられたものの(記憶の媒体が本格的にアーカイヴ化される)、アメリカのユダヤ人は同化志向が強かったため、外部に向けて自分たちの文化を積極的には発信しなかった。こうした姿勢がTV ドラマ「ホロコースト」で変化する。リヴァイヴァル世代は以前の世代とは異なり、ユダヤ文化のあり方の積極的な再定義も始める。リヴァイヴァリストは1980年代以降、ワールド・ミュージックの波に乗って、活動の範囲をユダヤ人共同体から世界に広げた(アーカイヴ化された記憶が生きた音楽として解き放たれる)。たしかにその音楽に向けられる集団的な期待と、演奏家個人の表現への意欲とのあいだで、さまざまな葛藤も生じることになった。「ホロコーストの音楽」を支配している集団的なナラティヴも、個を重視する視点から修正を迫られている。ただしリヴァイヴァリストの活動からは、他者にたいして「開かれているということ」で、かつてのクレズマーが実践していた「他者性」や「中間性」の分有を、自分たちの役割として取り戻していっている様子が窺える。
収録刊行物
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- コンタクト・ゾーン
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コンタクト・ゾーン 10 (2018), 305-335, 2018-06-30
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1050282810837028352
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- NII論文ID
- 120006491941
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- NII書誌ID
- AA12260795
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- ISSN
- 21885974
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- HANDLE
- 2433/232970
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- departmental bulletin paper
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- データソース種別
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- IRDB
- CiNii Articles
- KAKEN