誘意性と報道

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タイトル別名
  • Valence and Media in Downsian Model
  • ユウイセイ ト ホウドウ

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抄録

Chakraborty and Ghosh(2016)やOkazaki(2016)では, 報道機関による特定の政党に対する支持が選挙結果に与える影響について分析をしている。これらの研究では,報道機関が一つ存在すると仮定し,報道機関のイデオロギーが各政党の政策に影響を与えることを示している。特にOkazaki(2016)では,正確な誘意性が有権者に知られていない政党は,その不確実性を自らに有利な形で生かすのだが,その有利さは報道機関のイデオロギーに依存することを示す。例えば,報道機関のイデオロギーがそれほど偏っていなければ,そうでない場合に比べて,均衡政策は,中位投票者の好む政策から乖離し,政党の政策は政党にとって望ましい方向へ偏ったものとなる。 ただし,報道機関が複数存在すれば,均衡は変わるであろう。たとえある報道機関がある政党を支持しても,他の報道機関が支持していなければ,有権者はその政党の誘意性をそれほど高くは評価しないであろう。右翼的な報道機関が右翼的な政党を支持しても,それはそれほど説得力を持たない。その為,政党は,支持を得ていても,その有利さを生かしきれないかもしれない。このことを理解する政党は,報道機関に多様性が存在するなら,できるだけ多くの報道機関からの支持を得ようと試みるであろう。 この論文は,報道機関の多様性が選挙に与える影響について研究をする。この論文では,右翼的政党と左翼的政党の2つが存在するとする。報道機関については,右翼的報道機関,左翼的報道機関,中道な報道機関の3つがあるとする。各報道機関はどちらの政党を支持するか決め,その支持に従って報道姿勢を決める。そして,各有権者は,その各報道機関の報道をもとに,政党の誘意性を推測して投票し,選挙の結果が定まる。各政党はこのような影響を考慮してお互いに政策を選ぶことになるが,この論文では,その政党の政策決定の競争に関してのナッシュ均衡を求め,その性質を考察する。特に,Chakraborty and Ghosh(2016)やOkazaki(2016)の研究結果と異なり,常に純粋戦略から成るナッシュ均衡が存在し,しかもその均衡は唯一であることが示される。加えて,その均衡では,政党の政策は,政党や報道機関のイデオロギーとは独立であることも示される。

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