脳血管障害患者における麻痺筋の形態的および力学的特性

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タイトル別名
  • The architectural and mechanical properties of paralyzed muscles in patients with post stroke
  • ノウ ケッカン ショウガイ カンジャ ニ オケル マヒキン ノ ケイタイテキ オヨビ リキガクテキ トクセイ

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抄録

脳血管障害などの中枢神経系の損傷による運動麻痺では,他動的な関節運動に対して高い関節トルクが生じることが知られている。廃用性症候群の予防に向けたリハビリテーションを確立するために,麻痺筋の特性を定量することは重要である。本研究の目的は,運動麻痺による筋特性に着目し,それらを定量することであった。  13名の脳血管障害患者が被験者として参加した。超音波画像診断装置を用いて筋の形態的特性として下腿三頭筋の筋厚(muscle thickness:MT),筋束長(fascicle length:FL),羽状角(pennation angle:PA)を,また力学的特性として足関節と筋組織のスティフネスを測定した。筋の形態的特性測定では下腿長の近位30%部位を対象として腓腹筋内側頭(gastrocnemius medialis:MG),腓腹筋外側頭(gastocnemius lateralis:LG),ヒラメ筋(soleus:SOL)を測定した。スティフネスの測定では,被験者は股関節および膝関節90°屈曲の椅座位をとり,足関節を5°/sで底屈20°から背屈20°まで他動的に背屈された。筋の形態的特性のパラメータと足関節および筋組織のスティフネスは麻痺側と非麻痺側について対応のあるt検定を行い,足関節角度変化に対するFL変化,PA変化,腱伸長は,反復測定の二元配置の分散分析を行った。  MTについてはMGの麻痺側では14.6±2.5mmであり,非麻痺側では16.6±3.8mmで,麻痺側が非麻痺側に対して低値を示したが(p<0.05),LGおよびSOLでは有意な差はみられなかった。麻痺側におけるFLはMGでは28.1±6.8mm,LGでは38.5±14.9mm,SOLでは30.1±8.4mmであり,非麻痺側におけるFLはMGでは41.1±8.0mm,LGでは51.0±15.0mm,SOLでは42.5±9.0mmで,麻痺側が非麻痺側に対して有意に短かった。また,PAはLGの麻痺側では9.3±3.0°,非麻痺側では15.5±6.8°で,麻痺側が非麻痺側に対して低値を示したが(p<0.05),MGおよびSOLでは有意な差はみられなかった。他動的な足関節によって得られた足関節のスティフネスは麻痺側が0.133±0.046Nm/°であり,非麻痺側が0.097±0.038Nm/°で,麻痺側が非麻痺側と比較して有意に高値を示した(p<0.05)。また,MG,LGのスティフネスは麻痺側でそれぞれ0.259±0.153Nm/mm,0.181±0.133Nm/mmであり,非麻痺側ではそれぞれ0.139±0.069Nm/mm,0.087±0.070Nm/mmでMGとLGの筋スティフネスは麻痺側が非麻痺側と比較して有意に高かった。しかし,SOLでは両側で有意な差はみられなかった。さらに他動的な足関節背屈において,足関節の関節角度変化に対するFLの伸長はMGおよびLGでは麻痺側と非麻痺側で有意な交互作用がみられたものの,SOLではみられなかった。  本研究の結果から,脳血管障害のような中枢神経系の損傷による運動麻痺が生じることで,筋の形態的・力学的特性に有意な変化が生じることが示された。中でも,その影響は単関節筋であるヒラメ筋よりも二関節筋である腓腹筋で生じやすいことから,足関節のスティフネスを減少させるためのリハビリテーションを講じる際には患者間の個人差に加えて,筋の解剖的な特性も考慮すべきであることが示唆された。

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