英語の語形成における否定接辞に関する意味論ノート : unlicensed とnon-resident を巡って

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  • Semantic Notes on Negative Prefixes in Word Formation in English : The use of unlicensed and non-resident

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抄録

本稿は,大学教養課程の英語クラスでの質問を手掛かりに,英語形容詞の語構成に係る否定とそれに類する意味を担う接頭辞un-, in(il-, im-, ir-)のふるまいについて,語彙の歴史性を考慮しながら考察し,日常生活に係る語彙と学術語彙を念頭に,若干の整理を試みるものである。クラスでの質問とは,次のようなものであった。英語形容詞legal とregular は,語頭の音価との関係により,それらの反意語は,illegal とirregular となる。しかしながら,それらと同様の見方をlicensed とresident に当てはめて,* illicensed と* irresident となるかと思いきや,そうはならない。実態は,文脈,場面,状況にもよるが,licensed とresident の反義語は,一般的に,unlicensedとnon-resident という形が,安定した表現である。一体,接辞の運用規則はどのようになっているのか,という趣旨の問いである。 これについて,絶対的な運用の規則は立てられないものの,il-, ir-, (加えてim-)という否定の意味に係る接辞は,否定接辞in- と当該形容詞の語頭の音価との同化作用によって生じた異形態(allomorphs)であるという点を踏まえ,licensed は,その歴史的経緯の中で,in- との結びつきよりも,un- との結びつきを求めたとといえる。接辞や語の基体の歴史的起源をみると,in-(il-, im-,ir-)はラテン語由来であり,un- は,ゲルマン系の英語由来の接辞である。一方,license は動詞にしろ,名詞にしろ,フランス語に起因する。であれば,in- とlicensed の結びつきは,妨げるものがないように思われるが,実際はそうではなかった。出所に係る歴史的由来による結合性よりも,un- が,とりわけ過去分詞形容詞と結びつく傾向の強さと,un- の有する高い造語力がin- の歴史的由来性に優った,と解釈できると思われる。 他方,resident に係る否定の語彙については,歴史的にはnon-resident の出現(16c)のあと,一時期,♰unresident が生まれたが(16c; 初出例1574年),♰unresident は,17世紀以降,廃語となり,non-resident に集約した。意味の面からみると,ある(特定の)場所に人がいるか,いないか,を問題とするため,通常,その間の意味,すなわち,いる,と,いない,の間については注意が向けられることはほとんどない。このことからもresident の否定の接辞として,意味の中間段階のない,二項対立的な意味構造に適するnon- が求められることは頷ける。なお,関連する考察の段階で,否定接辞un-, in-, non- の他に,ラテン・フランス系の接辞dis- とギリシャ語由来のa- の振る舞いにも言及した。

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