平安初期訓点資料における不読字の再検討 : コーパス・電子化テキストを用いた訓点語研究の試みとして

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タイトル別名
  • A Reexamination of the Silent Characters in the Kunten Materials of the Early Heian Period : A Study of the Language of Kunten Materials Based on Corpora and Digitized Texts
  • ヘイアン ショキ クンテン シリョウ ニ オケル フドクジ ノ サイケントウ : コーパス ・ デンシカ テキスト オ モチイタ クンテンゴ ケンキュウ ノ ココロミ ト シテ

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抄録

平安初期訓点資料は,上代語資料と『古今和歌集』以降の平安時代仮名文学の間の日本語を伝える重要な資料群である。従来書籍の形で用いてきたこのような訓点資料群を電子化テキスト,XMLファイル,あるいはコーパスの形で公開していくことで,これまで明らかになっていなかった平安時代語成立の諸相が垣間見えるものと思われる。本研究では,西大寺本『金光明最勝王経』平安初期点の電子化テキスト(作成中)を用いて,平安初期訓点資料における不読字の全体像を計量的に眺め,考察した。 実際に眺めてみると,いわゆる「置き字」と言われる後世の漢文訓読における読まれない字の在り方とは異なる様相が見受けられる。たとえば,後世,格助詞の「の」として読む「之」は,同じく日本語の格助詞や接続助詞としての用法を持つ「而」「於」といった字と同様に,助詞としては読まず,前後の名詞に必要な意味を読み添えて読む傾向がある。このことは,漢字と意味との一対一の対応よりも,助詞は助詞として等しく名詞や節の後に出現するという,素朴な,それゆえに実態に沿った把握がなされていたことを示すように思われる。 また,平安初期に後世とはやや異なった規則で訓読されたことを考慮すると,平安中期以降の記録体(和化漢文)に見られる特徴的な語法が発生した理由を説明することもできる。たとえば「可……之由」の「之」が不読であるにもかかわらず必ず記されることも,記録体が発生した平安初期に「之」は助詞として把握されておらず,句や節の末尾を示すマークとして捉えられていたと考えることで,引用などを読み誤らないように記すために適切な構文の発生や,そのような文体の発生を可能にした背景の説明が可能になるのである。

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