An Iconological Study on the Arrangement of Images at Preah Khan in Angkor ―The Temple Complex at the Foundation Period―

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  • アンコールのプレア・カンの尊像配置に関する図像解釈学的研究―創建期の寺院伽藍に焦点をあてて―

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抄録

アンコールの最大版図を築いたジャヤヴァルマン7世は大乗仏教を篤信した王として知られ、その統治期(西暦1182~1218年頃)に、バイヨンやタ・プロームに代表される数多くの大規模な仏教寺院を建立した。それらの仏教寺院の中でもプレア・カンは、179偈もの長大なサンスクリット語碑文を刻む石柱(いわゆる創建碑文)が発見された寺院として知られている。その長大な碑文には、同王の系譜や偉業への賛辞のほか、この寺院の創建年代(1192年頃)とみなしえる本尊の造立年代や、この寺院で行われた儀式や寄進物のリストなど、様々な事柄が記載されている。中でも、寺院伽藍内中央に本尊である観音菩薩を安置し、その周囲の特定の区域に特定の諸尊を意図的に安置したことが読み取れる詳細な記述は、他のアンコール期の碑文を見渡しても例がなく、同王がプレア・カン建造に込めた世界観や宗教観などの寺院建造意図を読み解く資料としての可能性を秘めている。プレア・カンは、段階的な増改築を繰り返すことで今日の大伽藍を形成するに至ったことが、これまでの建築学や考古学あるいは岩石学などに立脚した研究によって広く知られており、その増改築は、寺院創建年代の以前から以後にわたる一定の期間において段階的に行われたことが明らかとなっている。筆者はこれまで、プレア・カンの大伽藍を形成する各施設の出入口構成部材に着目し、その様式的特徴を類型化することで、寺院創建時、すなわち本尊が安置された当時の伽藍がどのような姿であったかを再検討した。本稿では、まず、筆者がどのような考察過程を経てプレア・カン創建時の伽藍構成を提示するに至ったのか、簡単に紹介する。次に、観音菩薩である本尊を含め、寺院創建以前の建造と推定される伽藍構成施設内に、その当時安置されていた尊像を特定することが難しい現状において、出入口構成部材の中でも、尊像や宗教説話の一場面(神話や仏伝など)を表した浮彫装飾に着目し、その主題を同定することで、創建時に施設内に安置されていたと思われる彫像の尊格を類推する。補足資料として、出入口枠に刻まれた古クメール語の碑文などを取り上げることで、創建時の尊像の配置構成を示し、創建碑文に記された尊像配置との比較検討を行い、その整合性を検証する。そして最後に、プレア・カンの寺院伽藍内の尊像配置に込められたジャヤヴァルマン7世の寺院建造意図に言及する。

収録刊行物

  • 法華文化研究

    法華文化研究 (46), 143-190, 2020-03-20

    法華経文化研究所

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