小学校教師の協働意識と組織感情の関連 ―「チーム学校」構築のための組織マネジメントに焦点をあてて―

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タイトル別名
  • Relationship between Elementary School Teachers’ Collaborative Consciousness and Organizational Emotion ―Focusing on Organizational Management to Build a “Team School”―

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抄録

学校現場における複雑化・多様化する教育課題を背景に、中央教育審議会は、「チー ムとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」を報告した。この答申 では、学校組織の望ましい姿について、個々の教師が個別に教育活動に取り組むので はなく、学校のマネジメントを強化し、組織として教育活動に取り組む体制を創り上 げることの重要性を指摘している(文部科学省,2015)。  今の教師は、一人一人の子どもたちの個性を個別の能力とみなし、多様化した社会 に対応できる能力を育てることを求められている。学校教育の対象である児童生徒も 多種多様であり、一人一人の子どもの実態に応じたきめ細やかな教育を行うために は、従来の学級担任のみによる指導・援助では限界がある。学校教育において、教師 が子どもたちを支え教育活動を充実させていくためには、各クラスの児童生徒と担任 教師の関係だけではなく、同じ学校の教師たちが1 つのチームとなって、その学校の すべての子どもたちに関わることが求められている(高木・三浦・白井,2015)。  これまで、学校心理学の研究領域においても「チーム援助」の理論研究や実践研究 が行われてきており、その効果に関する知見も少しずつ積み上げられてきている。例 えば、野口・瀬戸(2015)は、「チーム援助」は、担任が一人で問題状況の解決を目 指すよりも効率的で有効であると報告し、井内・西山(2014)は、「チーム援助」を 実践することで学校適応援助体制の充実に効果を及ぼし、教師が一人で抱える負担感 を軽減させると述べている。  一方、「学級王国」と揶揄されてきた日本の教師たちの閉鎖的意識は、現在でも根 強く残っており、それが教師集団のチーム意識を阻んでいるとの指摘もある。例え ば、北神(2014)は教師の年齢構成の歪みに伴う課題や多忙による時間不足などが相 まって、ルーティンの仕事の処理や打ち合わせ、調整等に多くの時間が費やされ、 チームに期待される機能が十分に発揮できていないこと。また、教師の中核的業務で ある授業や学級経営は、その性質上それぞれの教師個人の責任で行われるという個業 的色彩が強く、相互不干渉主義といった教師文化も根強く存在していることを指摘し ている。  また、元吉(2011)は実際にチームで問題解決しようとすると、チームのメンバー 間で問題意識や危機意識に温度差があり、解決方法についても意見の相違があるこ と。また、多忙のために問題解決に取り組む時間や労力を十分に注ぐことができず、 一部のメンバーにそのしわ寄せが来ること。加えて、場合によってはチームのメン バー同士が対立関係になり、問題解決どころではない状況になってしまうことさえあ ると述べている。  さらに野口・瀬戸(2015)は、小学校教師における「チーム援助」の難しさについ て、①時間の確保ができないこと、②教師の見方が偏っていること、③情報交換が上 手くできないこと、④コンサルテーションを行う中での懸念があること、⑤援助方針 を明確にすることができないこと、⑥援助資源が不足していることの6 つを挙げてい る。また、これらの背景として、小学校教師の授業時間数の多さや、学級担任制によ る自分の学級以外の児童と関わることの少なさ、さらに安易に他の学級に介入するこ とへの不安や懸念を指摘している。このように、日本の学校組織特性に焦点を当てた 先行研究からは、学校の教職員たちが1 つのチームとなって効果的な教育を実践し、 有効に機能させることはそれほど容易なことではないことがわかる。  このような先行研究の結果を見ると、教育効果の高い「チームとしての学校」を具 現化するための大前提として、学校内の組織や指導体制を効率的に整備することは当 然として、それ以上に教師一人一人の「チームとしての学校」に対する肯定的意識を 醸成していくことがより重要になると考える。この点について高橋(2009)は、企業 の組織マネジメントの観点から、組織が有効に機能するための要件として「組織感情」 の重要性を指摘している。また、「組織感情」とは、「職場全体に広まっているとみん なが感じている共通の感情のことで、個人の感情が連鎖したもの」と定義している(高 橋,2009)。この「組織感情」は企業だけではなく、学校現場の「チームとしての学校」 の具現化においても重要な要因になると考えられる。  そこで、本研究では、とくに小学校教師に焦点をあて「協働意識」と「組織感情」 について、これらがどのように関連し影響し合っているか検討する。具体的には、① 小学校教師の「協働意識」の特徴の検討(小学校の教育活動の中で展開されている教 職員の協働に対する教師の肯定的認知もしくは否定的認知について、その実態を明ら かにする)、②小学校教師の「組織感情」の特徴の検討(自分の所属している職場の 雰囲気について、教師がどのように認知しているか、その実態を明らかにする)、③ 小学校教師の「協働意識」と「組織感情」の関連の検討(小学校教師の「協働意識」 と「組織感情」の相関関係を明らかにする)を行う。そして、それらの分析結果を踏 まえて、教育効果の高い「チームとしての学校」を具現化するための方策について考 察する。以上が本研究の目的である。

収録刊行物

  • 教育学論集

    教育学論集 (73), 217-234, 2021-03-31

    創価大学教育学部・教職大学院

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